2018年の楽天証券から始まった「クレジットカードでの投資」は今や大手ネット証券会社全てでそのサービスが展開されるようになりました。
一通り出揃ったこともあり、各陣営のサービスを比較してみたいと思います。
Contents
簡単なまとめ
主要なネット証券3社(楽天証券/SBI証券/マネックス証券)で出揃った、クレジットカードによる積立投資サービスですが、各社それに合わせて投資信託に関するポイント還元サービスを整備しています。
今回記事では、各社の還元サービスを制度通りに比較したあと、具体的な低コストインデックスファンド(例としてeMAXIS Slim 米国株式)の積み立てを例に、獲得ポイントがどのように対比されるのか見ていくことにします。
まずは簡単に結論だけですが、
- 毎月5万円のeMAXIS Slim米国株式を指定クレジットカードで積み立てる
- それによって得られるポイント還元(買付/残高)の合計を比較する
とする場合には、以下のようになります。後述しますが、楽天証券の残高還元ポイントは「年間60万円で10年間積み立てる場合の年平均」で計算しています。
証券会社 | 年間積立額 | 積立還元ポイント | 残高還元ポイント | 総還元ポイント |
---|---|---|---|---|
楽天証券 (2022年9月~) | 60万円 | 1200ポイント/年 | 59ポイント/年 | 1259ポイント/年 |
SBI証券 (2021年6月~) | 60万円 | 3000ポイント/年 | 121ポイント/年 | 3121ポイント/年 |
マネックス証券 (2022年2月~) | 60万円 | 6600ポイント/年 | 97ポイント/年 | 6697ポイント/年 |
従って、単純に還元量だけを見るとマネックス証券が大きくリードしている状況です。
それでは、具体的に各社の還元サービスについて詳細を確認していきましょう。
クレカ積立とは
冒頭で紹介した通りですが、法改正によって2018年から有価証券の決済にクレジットカードを使うことができるようになりました。
積立に限ったものではありますが、1%のリターンが確実に得られるものとして人気を博し、2021年4月には設定口座数が100万を超えたことが発表されています。
先行したのが楽天証券でしたが、2021年に入ってマネックス証券とSBI証券も同様のサービスをアナウンスし、主だったネット証券会社にクレカ積立サービスが出揃いました。
厳密に考えると、クレジットカードは本人のお金ではなく、本人の信用によって一時的に手元にないお金を使う仕組みとなっています。そのため、自己資金以上の取引を行うレバレッジ取引のような側面があり、長らくクレジットカードを原資とした有価証券の取引が禁止されてきました。(金融商品取引法第44条の2)
一方で、クレジットカードが若年層で特に決済手段として浸透していることもあり、若手層への投資浸透を狙う意味でも、「本人の安全を損なわない程度ならOK」という法改正(金融商品取引業に関する内閣府令第149条)があり、クレカ積立が実現したというわけです。
基本的には安全性を重視しており、クレジットカードで有価証券を買うのは最大で10万円までと決まっており、決済と支払の時差を考えるとクレカ積立サービスにおいては半分の5万円に制限されているというわけです。
クレカ積立の比較
それでは、各社のクレカ積立サービスを比較していきます。簡単にまとめたのが以下の表です。
各社、投資信託の残高に応じたポイント還元サービスがありますが、商品によって微妙に条件が異なるので、比較のため eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) を代表商品として比較してみました。
証券会社 | 対応カード | ポイント | 上限額 | 積立還元率 | 取扱商品数 | 残高還元率 | 参考:残高還元率 (Slim S&P500) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
楽天証券 | 楽天カード | 楽天ポイント | 5万円/月 | 0.2-1.0% | 2500 | 最大0.12% | 最大0.025% |
SBI証券 | 三井住友カード | Vポイント Tポイント | 5万円/月 | 0.5% | 2500 | 最大0.2% | 0.0374% |
マネックス証券 | マネックスカード | マネックスポイント | 5万円/月 | 1.1% | 1100 | 最大0.08% | 0.03% |
概ね横並びですが、少し差があるようです。順にみていきましょう。
楽天証券(2022年9月~)
今回紹介する3社の中では楽天証券が最も早くクレカ積立に対するポイント還元を2018年10月から1.0%で始めていました。しかし、楽天グループ全体としてポイント施策のコスト負担が年々重くなってきていることや、当初の目論見以上に投資信託業界の低コスト化が進み、持続性のある仕組みを維持することが難しくなり、2022年9月から低コスト投資信託(販売会社手数料0.4%未満)に対するポイント還元率が0.2%に下がることとなりました。
比較した3社はどれも投資信託の保有によるポイント還元サービスが存在しますが、楽天証券は残高に一定の利率がかかるわけではなく、一定の残高にはじめて達したタイミングでポイントが還元される仕組みです。
残高 | 残高還元ポイント(初到達時のみ) |
---|---|
10万円 | 10ポイント |
30万円 | 30ポイント |
50万円 | 50ポイント |
100 / 200 / 300 / 400 / 500万円 | 100ポイント |
1000 / 1500 / 2000万円 | 500ポイント |
一部のレバレッジ型ファンド等で対象外がありますが、基本的に全ての投資信託において上記のポイント還元があります。
元々もう少し高い還元率でしたが、2021年6月から徐々に還元率の見直しが入りました。参考のため過去のものも残しておきます。
2021年5月までの還元率は以下の通りでした。50万円の場合は0.12%に達し、かなりお得なプログラムでしたが見直しにより0.048%程度の水準になるようになりました。
残高 | 残高還元ポイント | 最大還元率(年率) |
---|---|---|
50~200万円 | 50ポイント/月 | 0.12%(50万円) |
200~400万円 | 100ポイント/月 | 0.06%(200万円) |
400~600万円 | 150ポイント/月 | 0.05%(400万円) |
600~800万円 | 200ポイント/月 | 0.04%(600万円) |
800~1000万円 | 300ポイント/月 | 0.05%(800万円) |
1000~2000万円 | 500ポイント/月 | 0.06%(1000万円) |
2000万円以上 | 1000ポイント/月 | 0.06%(2000万円) |
また、eMAXIS Slimシリーズなど、信託報酬0.1%台の超低コストファンドではポイント付与率が1/2になるようになっています。
2022年4月にさらなる改定が入り、一定の残高に到達したタイミングで一度だけポイント付与されることとなり、従来のように永続的なポイント付与がされない形となりました。
【2022年4月まで】
残高 | 残高還元ポイント | 最大還元率 |
---|---|---|
50~200万円 | 20ポイント/月 | 0.048%(50万円) |
200~400万円 | 80ポイント/月 | 0.048%(200万円) |
400~600万円 | 150ポイント/月 | 0.05%(400万円) |
600~800万円 | 200ポイント/月 | 0.04%(600万円) |
800~1000万円 | 300ポイント/月 | 0.05%(800万円) |
1000~2000万円 | 400ポイント/月 | 0.048%(1000万円) |
2000万円以上 | 800ポイント/月 | 0.048%(2000万円) |
【2022年4月から】
残高 | 残高還元ポイント |
---|---|
10万円 | 10ポイント |
30万円 | 30ポイント |
50万円 | 50ポイント |
100 / 200 / 300 / 400 / 500万円 | 100ポイント |
1000 / 1500 / 2000万円 | 500ポイント |
SBI証券(2021年6月~)
SBI証券は3社において積立時のポイント還元率0.5%とやや低くなっています。対応カードも自社発行というわけではないため、そのあたりの協業コストが高く作用しているのかもしれません。
ただし、発行から半年間は1.5%のポイント還元となるスタートダッシュキャンペーンが実施されるようです。
その他、残高に対するポイント還元率は比較的高めに設定されています。
こちらは商品によって還元率が異なりますが、元々低コストなインデックスファンドにおいては概ね0.03-0.05%の還元だと思ってよいでしょう。
マネックス証券(2022年2月~)
マネックス証券は2021年5月に登場したマネックスカードを用いたクレカ積立となります。当初は積み立てサービスの詳細が不明でしたが、2022年2月から1.1%でクレカ積立およびポイント還元に対応しました。
この発表の少し前、クレカ積立への還元で先行していた楽天証券がむしろ還元率を下げる発表をしたことからも大きな話題となっていました。
投資信託のラインナップ自体は商品数の観点で少し見劣りしますが、基本的に人気のファンドは取り揃えているため現実的に困ることはなく、1.1%の還元が今のところキャンペーン的な扱いでないことは大きな優位性となるでしょう。
一方で、残高に対する還元は3社の中でやや低めとなっています。
特に、SBI・V・S&P500インデックスファンドはポイント還元の対象外なので注意が必要です。
選択のポイント
さて、そんな3社のクレカ積立ですが、それぞれの特徴を踏まえると選択のポイントは以下となります。
- 単純な金銭的優位性
- 主に貯めているポイント
- 全部やる
それぞれ解説します。
単純な金銭的優位性
最もわかりやすい考え方は金銭的優位性に着目することです。
例えば、毎月5万円のSlim S&P500を積み立てたとする場合、各社における初年度の獲得ポイントは以下のようになります。なお、楽天証券の残高還元ポイントは「10年600万積み立てる場合の年平均(590ポイント/10年)」で計算することにします。
証券会社 | 年間積立額 | 積立還元ポイント | 残高還元ポイント | 総還元ポイント |
---|---|---|---|---|
楽天証券 | 60万円 | 1200ポイント/年 | 59ポイント/年 | 1259ポイント/年 |
SBI証券 | 60万円 | 3000ポイント/年 | 121ポイント/年 | 3121ポイント/年 |
マネックス証券 | 60万円 | 6600ポイント/年 | 97ポイント/年 | 6697ポイント/年 |
単純な総還元ポイントではマネックス証券が優勢なことがわかりました。2021年5月時点では楽天証券有利でしたが、還元率の見直しにより一転してマネックス証券有利になっています。
なお、ポイント還元は投信残高によっても異なるので、例えば1000万円あるとするとこのようになります。こちらの楽天証券も「1000万円到達までの累計ポイント」で計算します。
証券会社 | 年間積立額 | 投信残高 | 積立還元ポイント | 残高還元ポイント | 総還元ポイント |
---|---|---|---|---|---|
楽天証券 | 60万円 | 1060万円 | 1200ポイント/年 | 1090ポイント | 1200ポイント/年 + 1090ポイント |
SBI証券 | 60万円 | 1060万円 | 3000ポイント/年 | 3861ポイント/年 | 6861ポイント/年 |
マネックス証券 | 60万円 | 1060万円 | 6600ポイント/年 | 3097ポイント/年 | 9697ポイント/年 |
ここでもまだマネックス証券が強いですね。
楽天証券の残高還元の仕組みが「初回到達時のみ」になったことから、継続的に還元されるポイントがかなり少なくなってしまいました。
最終的には残高還元率0.0374%のSBI証券 vs 0.03%のマネックス証券の構図となるため、残高が4000万円を超えたあたりでSBI証券がもっともポイント還元に優れるようになります。
- ~4000万円:マネックス証券 > SBI証券 > 楽天証券
- 4000万円~:SBI証券 > マネックス証券 > 楽天証券
という感じです。年間60万円のクレカ積立だけで残高4000万円を目指すと、年利7%計算だとしても25年ほどかかるので、それまでの累積分含めてSBI証券で取り返すのは相当長い時間がかかりそうです。
主に貯めているポイント
上記の通り、確かに金銭的有利性で優劣はつきますが、だからといって普段使っていないポイントをもらうのも考えものです。
そうした場合には普段使っているポイントを踏まえて選ぶことになりますが、各社獲得できるポイントと、公式に交換手続きができるポイントは以下の組み合わせとなります。
証券会社 | ポイント | 交換先 |
---|---|---|
楽天証券 | 楽天ポイント | ANAマイル |
SBI証券 | Tポイント | ANAマイル / JRキューポ |
Vポイント | ANAマイル / dポイント / Amazonギフト券 / Tポイント / 楽天ポイント / Pontaポイント / VJAギフトカード | |
マネックス証券 | マネックスポイント | ANAマイル / JALマイル / dポイント / Amazonギフト券 / Tポイント / Pontaポイント / nanaco / WAON / 永久不滅ポイント |
他ポイントへの交換先が多彩なのはマネックスポイントでした。
Vポイントも多彩といえば多彩なのですが、元々クレカ積立からVポイント、投信残高からTポイントが出てくるため、扱いは一番面倒かもしれません。
また、楽天ポイントは交換先がANAマイルしかなく、最も選択肢に乏しいポイントでした。
とはいえ、楽天ポイント自体が4大ポイントの一角であるため、交換する必要性は低いでしょう。
そのように、自分がメインで集めいているポイントを起点にすれば、
- 楽天ポイント:楽天証券
- Tポイント:SBI証券
- Pontaポイント:マネックス証券
- dポイント:マネックス証券
という感じになるでしょう。
全部やる
「選択のポイント」と言いながら卑怯ですが、どれを特に選ぶことなく、全部やることも可能です。
クレカ積立の仕組みは本人と金融機関の間での規制によるので、金融機関が複数あること自体は問題ありません。
なので、毎月15万円あれば全ての証券会社で積立を行い、フルでポイント還元を得られるというわけですね。
(もっとも、そこまで入金力がある方は稀だと思います…)
まとめ
今回は各社に出揃ったクレカ積立のサービスを比較してみました。
当初は横並びのようなシンプルな仕組みでしたが、各社色々と考えを巡らせた結果、横並びでは比較しづらいようになってきました。
楽天証券で先行してクレカ積立が始まった当初は「迷わず楽天証券」くらいでしたが、SBI証券やマネックス証券が参入する中では、比較がなかなか難しいようになっていきました。単純な還元率で比較するほか、自分が主軸にしているポイントにもよってくると思いますので、そのあたりも悩みどころになってくるでしょう。
こうしたクレカ積立の動きの基本的な背景は「積立を通じて長期顧客を獲得する」ことにありますので、こうしたお得さを背景に証券会社の切り替えも含めて顧客を獲得したいところだと思いますが、やはり証券会社の切り替えはそれなりに大変な作業なので、あっちこっちと切り替えられないことも選択を難しくしている点です。
いずれにせよ、高々1%とはいえ年間数千ポイントが得られる仕組みですので、最適ではないとしても、まずはどこか身近なところでクレカ積立を利用するとよいでしょう。
参考情報
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以下の記事ではそうしたポイント投資サービスを比較しています。