コーポレートガバナンス・コード改訂から見るこれからの日本株式市場

つい先日、東証から 改訂コーポレートガバナンス・コードの公表 として、検討が進んでいた新しいコーポレートガバナンス・コードが公表されました。

全面改定ではなく部分的な改訂ではありますが、改訂部分からこれから重視されるであろう日本企業の振る舞いが見えてきますので、内容を大まかに見てみましょう。

コーポレートガバナンス・コードとは

まず最初にですが、コーポレートガバナンス・コードに触れておきましょう。

コーポレートガバナンス・コードとは、要するに「企業が守るべきガバナンスのお作法」をまとめたものですが、東証を運営する日本取引所グループが発行していることから、特に東証に上場する企業に対して求められる内容であるのが特徴です。

コーポレートガバナンス・コードについて

コーポレートガバナンス・コードについて、冒頭で次のように説明されています。

コーポレートガバナンス・コードについて

本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。

こうしたコーポレートガバナンス・コードの初出は2015年で、その後2018年に一度改訂されているので、今回が2度目の改訂となります。ちょうど3年おきになっていますね。

コーポレートガバナンス・コードの主な内容

コーポレートガバナンス・コードは2回の改訂を経ているものの、全5章からなる概ねの構成は変わっていません。

すなわち、

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

の観点から、会社のあり方を示すものとなっています。

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コーポレートガバナンス・コードの改訂内容(2021年)

それでは、今回の改訂が具体的にどういった内容になっているのか見てみましょう。
今一度今回の公表ページを見てみると、改訂内容について以下のようにまとめられています。

1. 取締役会の機能発揮
  • プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
  • 指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
  • 経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
  • 他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任
2. 企業の中核人材における多様性の確保
  • 管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
  • 多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
3. サステナビリティを巡る課題への取組み
  • プライム市場上場企業において、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
  • サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示
4. 上記以外の主な課題
  • プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任又は利益相反管理のための委員会の設置
  • プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進

それでは、ポイントごとに変更箇所をみてみましょう。

1. 取締役会の機能発揮

これまでも上場会社における取締役会の重要性はコーポレートガバナンス・コードにおいて定められてきたところですが、今回の改訂においても、改めてそれを念押しするようなチューニングが加えられています。

例えば、取締役会の役割・責務に関する記載を見てみると、

【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】
補充原則
(旧)
. 4-3④ コンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備は、適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが、取締役会は、これらの体制の適切な構築や、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。

(新)
4-3④ 内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであり、取締役会はグループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきである。

というように、まず文章全体が「取締役会は体制の適切な構築、運用状況の監督をすべきである」というシンプルな形に改められ、その役割がよりはっきりと述べられています。

また、地味にポイントになっているのが旧文の冒頭についていた「コンプライアンスや財務報告に係る」というものが落とされていることですね。要するに、「コンプライアンスと財務報告だけちゃんと見てればいいってもんじゃないぞ」という話だと思われます。

他にも、取締役の選出についてこのような改訂があります。

【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
補充原則
(旧)
4-11① 取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

(新)
4-11① 取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせ取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。

と、こちらは元の文章をより詳しくする追記だけが行われています。
取締役会の構成にあたっては、単に「なんかそれっぽい人」を選出するわけではなく、「なぜこの人を取締役にしたかをはっきり説明できるようにしなさい」というわけですね。

といったチューニングによって、改めて取締役会の適切な構成や、その機能が発揮できるような文章になっています。

2. 企業の中核人材における多様性の確保

続いては「多様性の確保」についてですが、従来主として「女性活躍」がなんとなく意識されるに留まる文章であったことに対し、補充原則の追加で外国人や中途採用者が明確化されました。
また「推進すべき」に留まっていた表現についても、「測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべき」という一歩踏み込んだルールとなりました。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

補充原則
(新)
2-4① 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

この補充原則を素直に受け取ると、女性管理職の比率等がKPIとなり、それが公表されることになると思われますが、果たして各企業の対応がどうなるのか、気になるところです。

3. サステナビリティを巡る課題への取組み

全体を読んだとき、見た目に真新しく感じるのがこのサステナビリティの部分です。
改訂前から既にサステナビリティ(従来表記は “サステナビリティー” )の記載はありましたが、今回の改訂でその意義や要請がよりはっきりしました。

【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題】
補充原則
(旧)
2-3① 取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。

(新)
2-3① 取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

こちらも特徴的なのは落とされた文章のほうで、改訂前で「要請・関心が大きく高まりつつある」としていた部分が落とされていることから、「今やサステナビリティは上場企業にとって当たり前の考えである」というスタンスが見て取れます。

4. 上記以外の主な課題

ここまでの3テーマ以外では、子会社の適切な運営のための特別委員会設置のほか、情報開示についての改訂が見られます。

【原則3-1.情報開示の充実】
補充原則
(旧)
3-1② 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。

(新)
3-1② 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

これからの日本株市場においては、海外資本の呼び込みも課題になってきますので、海外投資家も情報をキャッチしやすくなるよう英語での開示を、特にプライム市場においては求めていくというわけですね。

コーポレートガバナンス・コードと東証の関係

さて、こうして改訂されたコーポレートガバナンス・コードが、改めて東証においてどういった意味を持つのか整理してみます。

コーポレートガバナンス・コードとは、東証が東証において上場する企業に求めていく基本的なルールのことで、コーポレートガバナンス・コードの遵守状況が東証への上場基準にもなっていきます。

具体的には、各市場区分において以下のように遵守が求められます。

市場区分新基準(2022年4月~)参考:旧基準
プライム
(旧東証一部)
全83原則全78原則
スタンダード
(旧東証二部)
全83原則全78原則
グロース
(旧JASDAQ / マザーズ)
基本5原則基本5原則

基本的な遵守基準は変わりありませんが、文言の変更や補充原則の追加によって、プライムやスタンダードの企業にを中心に、改めて対応が必要になるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの対応にあたっては、「コンプライ(遵守) or エクスプレイン(説明)」の二択で、守れないなら説明が必要だとされています。

現時点での遵守状況を踏まえつつ、東証再編に向けては2021年7月に現在の上場企業に対して移行先市場の通知がなされる予定です。各企業は、その通知を踏まえ、その通りに市場移行するか、コーポレートガバナンス・コードなどの対応を行い、より上位の市場を目指すのかについては9か月の対応猶予があることになります。
取締役の構成や選任理由の明確化等、すぐには対応できないところもあると思いますが、遵守できない部分に対する説明は注目すべきかもしれません。

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まとめ

今回はコーポレートガバナンス・コードの改訂内容から、これからの東証上場企業に求められていく原則的な振る舞いについて見てみました。

取締機能の強化はより一層進んでいくと思いますし、サステナビリティ等、社会的な責任を果たすためにも取締機能の適切な発揮は不可欠なものであると思われます。
日本においては、米国に比べて「経営と執行が分離されていない」と言われることが多く、実際に「取締役執行役員」なんて肩書がよく見られる通り、取締機能の役割や意義はあまり注目されてきませんでした。

それが今回の改訂や、市場再編を踏まえて改めて注目されることになりますので、これからの日本企業が生き残っていくには、市場の信頼を得続けるには、こうしたコーポレートガバナンス・コードの遵守が求められていくことになります。

個人とはいえ、投資家としては「この会社は投資に値するものなのか?」を考えることもありますので、こうしたコーポレートガバナンス・コードの遵守状況や、公表される取り組み内容を踏まえながら、その会社のあり方にも注目してみたいと思います。

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参考記事

今回のコーポレートガバナンス・コードは2022年4月を予定している東証再編に向けたアクションの1つです。そうした東証再編に向けた動きは以前記事にまとめていますので、そちらもご覧ください。