投資における利益の源泉にはキャピタルゲインとインカムゲインがありますが、インカムゲイン狙いの高配当なポートフォリオを組む人気は根強いです。
しかし一方で、「資産形成中の配当は不要」という声もあるため、資産タイプの乗り換えを視野に入れ、効果的に高配当を実現する方法を考えてみました。
Contents
簡単なまとめ
それなりの長さになったので先に結論をまとめておきます。
もしあなたが端的に
- 高配当なポートフォリオを構成していきたい
- VTI / VIG / VYMのどれに投資するか迷う
- 各ETFは市場平均インデックス / 増配インデックス / 高配当インデックスの象徴なので、VOOやHDV、SPYDなどでも読み替え可
と考えているのであれば、
- トータルリターンが高ければなんでもよい人:VTIルート
- 最終的な分配金利回りをとにかく高めたい人:VTI→VYMルート
- 完成までの道のりでもインカムを多めに受け取りたい人:VYMルート
という、何を求めるかによって3通りの選択があります。
1点目に書いている通り、トータルリターンのみであればVTIなどの市場平均インデックス優位となりますが、「混乱期にも安定的に分配金を受け取れる」など、トータルリターン以外にも選択基準を設けるなら高配当インデックスを利用する道もあります。
それでは、この結論に向けた考えを整理していきましょう。
高配当ポートフォリオの実現に向けて
高配当なポートフォリオを考えるとき、よく話題に挙がるのが以下の3タイプです。
各タイプの代表として、VTI / VIG / VYMを選び、今回の分析を行っていきます。
- 市場連動ETF:VTI
- インカムゲインは低いが、キャピタルゲインに優れるタイプ
- VOOやVTなど、市場全体に連動する時価総額加重型のETFもこのタイプ
- 増配ETF:VIG
- キャピタルゲイン寄りだが、増配によりインカムゲインの増加が見込める
- 他にはSDYやDVYなどもある
- 高配当ETF:VYM
- キャピタルゲインは低いが、インカムゲインに優れる
- SPYDやHDVなども有名
各タイプ、バンガードETFに限る必要はないのですが、個人的にバンガード派なのでこの3つを題材にして考えていくことにします。
各ETFの基本データ
大まかな特性を把握するため、取り上げる3種類のETFについて簡単に説明しておきます。
後述しますが、2020年末までの10年間で比較しますので、各種値は2020年12月末日のものを算出しています。なお、リターンに分配金は含まず、株価の推移を表現しています。
VTI | VIG | VYM | |
---|---|---|---|
名前 | 米国株式ETF | 米国増配株ETF | 米国高配当株ETF |
分配金利回り | 1.44% | 1.65% | 3.22% |
3年リターン | +41.81% | +38.36% | +6.87% |
5年リターン | +86.62% | +81.55 | +37.09% |
10年リターン | +199.77% | +168.23% | +116.75% |
VYMは他よりも高い分配金利回りとなっていますが、その分キャピタルゲインに劣る結果となっています。このあたりがまさに悩みの種ですね。
最終結果を見ると VTI > VIG > VYM の順になっていますが、よく見ると結構な期間でVIGがVYMを下回っているようにも見えます。これはリーマンショックで大きく下げたVYMがその反動で好調に推移したことによるものなので、基本的な順序関係は最終結果の通りだと思っていただいて差し支えないと思います。
高配当ポートフォリオの実現ルート
この3種類のETFを意識して、高配当なポートフォリオを実現する場合、候補になりそうなのは大きく4パターンがあるように思えます。
- VTIルート
- キャピタルゲインの伸びを信じてVTIを積み立て続ける
- VTI→VYMルート
- VTIでまずキャピタルゲインを得て資産を最大化し、最後に全額をVYMに転換する
- VIGルート
- 増配パワーがVYMを上回ると信じてVIGを積み立て続ける
- VIGのキャピタルゲインはVTIに劣るため、VIG→VYMルートは考慮しない
- VYMルート
- 高配当パワーを信じてVYMを積み立て続ける
これらのパターンだとしたとき、最も効果的に高配当を実現できるのはどのパターンになるでしょうか。シミュレーションしてみましょう。
各ルートの比較
それでは4パターンのルートを比較していきます。
比較の条件は次の通りです。
- 2011/01/01~2020/12/31までの期間において四半期ごとに一定額を積み立てる
- 分配金の再投資は行わない
- 10年後の「元本に対する分配金利回り(YOC, yield on cost)」が最も高いものを調べる
- VTI→VYMの切り替えにあたっては、キャピタルゲイン部分に20%課税されてから切り替えるものとする
それでは、比較していきましょう。
結果
いきなりですが、まず結果をまとめます。
VTI | VTI→VYM | VIG | VYM | |
---|---|---|---|---|
積み立て回数 | 40回 | 40回 | 40回 | 40回 |
キャピタルゲイン | +89.09% | +71.27% | +74.66% | +30.86% |
インカムゲイン | +13.88% | +13.88% | +14.23% | +21.50% |
時価分配金利回り | 1.44% | 3.22% | 1.65% | 3.22% |
元本分配金利回り | 2.66% | 5.11% | 2.82% | 4.35% |
(参考)トータルリターン | +102.97% | +85.15% | +88.89% | +52.36% |
ということになりました。
やはりトータルリターンはVTI単体のパターンが最も高く、元金に対する分配金利回りではVTIからVYMへの乗り換えパターンが最も良い結果になっています。
上の表は最終結果だけを切り取っていますので、途中経過含めてグラフにしてみます。
(VTI→VYMのグラフは途中経過としてはVTIのものと同じになるので省いています)
基本的に株価が右上がりですので、資産額・元本利回りともに右肩上がりになっています。
最終的にはVIGの元本利回り利回りがVTIを上回っていますが、この期間では一時期下回っていたことがあったようですね。
各ルートの考察
それでは、結果は上の通りですが各ルートについてコメントしていきます。
- トータルリターンが最も高い
- 株価の伸びともに、元本利回りは1.44%→2.66%まで上昇
- 元本利回りが最も高く、今回求めていたルート
- VYMへの切り替えで少しキャピタルゲインが目減りするものの、それでもVIGやVYMより多い
- 増配があるとはいえ、思ったほど振るわなかった
- この期間と比較観点においてはほぼ「劣化版VTI」という印象
- VIG→VYMルートを考える場合、トータルリターン+73.96%、元本利回りが4.93%になる
- トップとはならなかったものの、元本利回りは4%を超えて高い
- 10年間で受け取るインカムゲインが最も多い
というところでしょうか。どっちつかずなのは結局VIGルートだけで、それぞれはっきり色の出る結果になったかと思います。
ルート選択のポイント
このような結果が得られたことを踏まえ、「高配当ポートフォリオを実現したい」と思った場合、どのようなアプローチがよいのか考えます。
これは結局、各ルートにおける長所がそのまま答えに繋がるので、端的に言えば
- トータルリターンが高ければなんでもよい人:VTIルート
- 最終的な分配金利回りをとにかく高めたい人:VTI→VYMルート
- 完成までの道のりでもインカムを受け取りたい人:VYMルート
の3パターンに分類されます。それぞれ考え方を確認していきましょう。
トータルリターンが高ければなんでもよい人
いきなり本末転倒な話ですが、先ほど挙げたようなシミュレーションを見て「やっぱりトータルリターンが高ければなんでもいいや」と思いを改める方もいるかもしれません。
そうした方は迷わずキャピタルゲインを最大化するVTI等の市場連動ETFを選べばよいでしょう。
先ほどのシミュレーションにおいてはVTIであっても出てくる分配金を再投資しない前提としていたため、分配金再投資を行うともう少しパフォーマンスがよくなるはずです。
とはいえ、ハナから分配金に興味がないのであればわざわざ分配金の出るETFを選択せず、楽天VTIやSBI VTIのような投資信託に頼っておくのも手ですね。
最終的な分配金利回りをとにかく高めたい人
続いては途中経過はさておき、とにかく分配金利回りを高めたい人向けのルートがVTI→VYMのルートです。
シミュレーションの結果通り、分配金スタイルに移行するまではVTIでキャピタルゲインを最大化し、然るべきタイミングで全量をVYMに切り替えると分配金利回りを高めることができます。
ちなみに、切り替えるタイミングではそれなりに大きなVTI資産を一度に売買することになりますが、基本的にはVTIとVYMは同じ米国株式クラスに属し、トレンド含めて概ね価格連動性があるため、同時に行う場合は特段切り替え時期を気にしなくてよいはずです。
もちろん、暴落時はVYMがより売られる傾向にあるため、そういった暴落に狙いを定めて処理するともう少し利回りを高められますが、狙って暴落を出せるものではないので考えものですね。
また、このルートは「最終的に全量を高配当ETFに切り替える」ものですので、VYMはもちろんのことSPYDやさらにはREITのファンドなども選択肢に入ってきます。高配当株式ETFに関しては以下の記事で比較していますので参考にしてみてください。
完成までの道のりでもインカムを多めに受け取りたい人
そして最後にVYMパターンの出番です。
VYMルートの長所は唯一つ、積み立て期間中に貰えるインカムがパターンの中で最も多いということです。
結局のところ、トータルリターンではVTIルートが最も優れているため、リターン面で見た場合にはVYMやVIGを選ぶ理由がないように思えます。シミュレーションした通り、最後にまとめて切り替えればよいだけです。
しかし、唯一その結論を変えられるのは「途中でもインカムを受け取りたい」という感情面の話です。
確かに、トータルリターンを重視して効率的に資産形成していくことは非常に合理的な判断ではありますが、ある意味資産形成が完了するまで生活が一切変わらないことになります。
その点、インカムを投資に組み込んでおくと資産の形成に併せて徐々にフィードバックされるインカムが多くなり、今の生活に影響を与えていくことになります。
もちろん、VTIルートであっても資産形成の進捗を見ながら積み立て額を下げ、「日々の生活にまわせるお金を増やす」ことでも近しいことはできます。とはいえ、相場混乱期における安定感は高配当ETFにおける分配金に軍配が上がるため、「一度上がった生活水準を、市場動向で振り回されたくない」というような場合には高配当ETFが有効だと言えるかもしれません。
いずれにせよ、このVYMルートの選択にはある程度理由付けがあるように見えて、結局は感情的な「働いている間にもインカムがほしい」「相場混乱期にもある程度の安定と安心がほしい」に左右されているだけと言えるものだということです。
こういった価値観は本記事で取り上げている「高配当ポートフォリオを組みたい!」という根幹に関わるため、こうした不合理な選択に魅力を感じている場合には一度落ち着いて考えてみるのがよいでしょう。
まとめ
インデックス vs 高配当とか、キャピタルゲイン vs インカムゲインという形で度々議論が巻き起こる両者ですが、具体的に考えてみると数字上は高配当/インカム派にあまり勝ち目はありません。
要するに、経済的合理性の観点からは高配当ポートフォリオを目指す必然性はないわけです。
しかしながら、経済的ではなく感情的合理性であればどうでしょうか。
その最たるものは「相場混乱期における配当という安定」だと思いますが、そういった感情的な部分においては十分高配当を選ぶ理由があるというわけです。
実際に、私自身も「VTI一択が合理的」であると理解しながらも、VTIとVYMを2:1程度の比率で同時に投資しています。
まだまだ少ないながらも徐々にVYMから入ってくる分配金が大きくなってきており、そのお金で少し豪華なランチに行くなど、僅かながら現在の生活へのフィードバックを感じています。
経済的合理性で動くのはそれこそ合理的な考えではありますが、お金よりも先にくるはずの望ましい生き方やライフプランを意識して、そこにマッチする投資戦略を取っていきたいと思います。