米国株高配当ETF(VYM/HDV/SPYD)を比較する

高配当ETFとして有名なVYM/HDV/SPYDについて、私が取り上げるまでもなく多くの先人がその特徴について考察してきています。

そう思うと、いまさら私が取り上げる必要もないのかもしれませんが、インカムゲイン投資の価値を自分なりに掘り下げた際、その主力として選ぶ高配当ETFの選び方が自分なりにはっきり見えてきたので、その考えを整理してみたいと思います。

米国株高配当ETF

今回取り上げるのは、米国株式を対象として、高配当性をその組成方針において重視している以下のETFです。

米国株に限らずとも、高配当ETFと言えば真っ先に名前が上がるであろうと思われるのがこの3つです。
それぞれバンガード、ブラックロック、ステートストリートのETFであり、世界三大資産運用会社の高配当ETFが並んでいます。

ひとまずそれぞれを一覧で比較してみましょう。2020年8月時点のデータです。
配当利回りを同一期間で比較可能な直近4年で出していますが、カッコで設定来平均も記載しています。

VYMHDVSPYD
運用会社バンガードブラックロックステートストリート
ベンチマークFTSE High Dividend Yield IndexMorningstar Dividend Yield Focus IndexS&P500 High Dividend Index
純資産総額333.2億ドル57.0億ドル19.3億ドル
経費率0.06%0.08%0.07%
配当利回り
(設定来平均
3.30%
(3.25%, 2010~)
3.63%
(3.67%, 2011~)
4.68%
(4.68%, 2016~)
構成銘柄数4287980

一見したところ、純資産総額はVYM, HDV, SPYDの順で大きく、その逆に配当利回りはSPYD, HDV, VYMの順で大きいですね。
一応経費率はVYMが最も低いですが、いずれも0.1%を切っており、十分に低水準だと言えるでしょう。

純資産総額はVYMが飛びぬけて見えますが、SPYDですら日本円で約2000億円規模ですので、十分な大きさがあると言えます。
ちなみに現時点で世界最大のETFはS&P500連動のSPYで、約30兆円の規模に達しています。VYMのさらに10倍ということですね。

それでは、大まかに見るのはこのあたりにして、各ETFをもう少し詳しく見てみましょう。

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各ETFの詳細

先ほど一覧した定量的な内容に加え、ファンドの組成方針などを踏まえ、より詳しくみてみます。

VYM

では最初にVYMです。まずは諸元をおさらいしましょう。

VYM
運用会社バンガード
ベンチマークFTSE High Dividend Yield Index
純資産総額333.2億ドル
経費率0.06%
配当利回り
(設定来平均)
3.30%
(3.25%, 2010~)
構成銘柄数428

構成銘柄数は400を超えており、今回の3種の中ではもっとも多いですね。

ファンドの特徴は以下となっています。

・FTSE ハイディビデンド・イールド・インデックスのパフォーマンスへの連動を目指します。
・ファンドはフルインベストメントを維持します。
・大型株の中でも、予想配当利回りが市場平均を上回る銘柄を、重点的に組入れます。
・低経費によってトラッキングエラーを最小限に抑えます。

バンガード・米国高配当株式ETF ファクトシート より

セクター分布

構成銘柄のセクター分布を調べてみると、以下のようになっています。

VYM構成銘柄のセクター分布(バンガード公表データ) より

組み入れ上位は金融、ヘルスケア、消費財、…と続き、トップ3の組み入れ比率は合計47.40%となっています。

金融ヘルスケアあたりにVYMの特徴が現れますね。

組み入れ上位銘柄

さらに、より具体的に組み入れ上位銘柄をみてみましょう。

銘柄名ティッカー組入比率直近配当率連続増配年数時価総額
1Johnson & JohnsonJNJ3.85%2.60%57年3,912億ドル
2Procter & Gamble Co.PG3.03%2.30%66年3,311億ドル
3JPMorgan Chase & Co.JPM2.96%3.62%9年3,028億ドル
4Intel Corp.INTL2.64%2.72%5年2,042億ドル
5Verizon Communications Inc.VZ2.37%4.20%15年2,422億ドル
6AT&T Inc.T2.24%6.90%15年2,138億ドル
7Cisco Systems Inc.CSCO2.06%2.99%8年2,002億ドル
8Merck & Co. Inc.MRK2.03%2.94%8年2,049億ドル
9Exxon Mobil Corp.XOM1.97%8.01%37年1,836億ドル
10Bank of America Corp.BAC1.91%2.76%6年2,262億ドル
25.06%
(合計)
3.90%
(平均)
22.6年
(平均)
2,500億ドル
(平均)

高配当銘柄として有名な銘柄の多くがラインナップされています。それだけに上位10銘柄の平均時価総額は2,500億ドルと、今回の中では最も大きいものになっています。
これは、元々のVYMが連動対象とするFTSE High Dividend Yield Indexが、米国の高配当企業約400社に対する時価総額加重平均型のインデックスですのである意味当然と言えます。

組み入れ銘柄の配当率はコロナショックで大きく下落したエネルギーXOMを除き、全体的に控えめな数字となっています。
上位を占めるJNJとPGは配当利回りこそ2%台と今一つですが、増配年数が米国株屈指の実績で、安定した配当を支えています。

HDV

続いてHDVです。

HDV
運用会社ブラックロック
ベンチマークMorningstar Dividend Yield Focus Index
純資産総額57.0億ドル
経費率0.08%
配当利回り
(設定来平均)
3.63%
(3.67%, 2011~)
構成銘柄数79

VYMよりはやや配当利回りが高く、3.6%程度の実績となっています。

・米国の有名、優良企業の株式に投資します。
・財務状態が健全であり、配当金を支払っている株式75銘柄に投資できます。
・インカム獲得を目指すために活用できます。

iシェアーズ・コア 米国高配当株 ETF ファクトシート より

この特徴を素直に受けると、HDVもVYM同様、安定性を重視した高配当選択になっているように見えますね。

セクター分布

HDV構成銘柄のセクター分布(ブラックロック公表データ) より

HDVのセクター分布は、金融の組み入れが低く、エネルギーの組み入れが高いという点で特徴的です。

また、上位3セクターで57%になっているなど、セクターの偏りが大きいというのも構成上の特徴になっています。

組み入れ上位銘柄

銘柄名ティッカー組入比率直近配当率連続増配時価総額
1AT&T Inc.T9.39%6.90%15年2,138億ドル
2Exxon Mobil Corp.XOM8.36%8.01%37年1,836億ドル
3Johnson & JohnsonJNJ7.08%2.60%57年3,912億ドル
4Verizon Communications Inc.VZ6.79%4.20%15年2,422億ドル
5Pfizer Inc.PFE5.96%3.90%9年2,135億ドル
6Chevron Corp.CVX5.75%5.71%19年1,620億ドル
7Coca-ColaKO4.12%3.39%57年2,053億ドル
8Merck & Co. Inc.MRK4.07%2.94%8年2,049億ドル
9Cisco Systems Inc.CSCO4.04%2.99%8年2,002億ドル
10Pepsico Inc.PEP3.59%2.84%48年1,893億ドル
59.15%
(合計)
4.35%
(平均)
27.3年
(平均)
2,206億ドル
(平均)

これら上位10銘柄の合計は59.15%で、今回の中で最も大きくなっています。
先ほどのセクター分布でもそうであったように、選択と集中というスタンスがとても色濃く見えます。

とはいえ、連続増配年数や時価総額はVYMと比べて遜色ないものであるため、信頼できる銘柄へ集中投資し、高い配当利回りを実現しているというのがHDV最大の特徴だと言えるでしょう。

ちなみにHDVが連動対象とするMorningstar Dividend Yield Focus Indexは時価総額加重平均型のインデックスなどではないため、いわゆるスマートベータ型の投資を行っていることになります。

SPYD

それでは、最後にSPYDです。

SPYD
運用会社ステートストリート
ベンチマークS&P500 High Dividend Index
純資産総額19.3億ドル
経費率0.07%
配当利回り
(設定来平均)
4.68%
(4.68%, 2016~)
構成銘柄数80

純資産総額は3種の中で最も小さくなっていますが、他より頭一つ抜け出た配当利回りを実現しています。

・S&P500高配当指数の値動きに、経費控除前ベースで、概ね連動する投資成果を追求します。
・コアとなる資産クラスに対して幅広い分散投資を可能にするポートフォリオ構築ツールであり、低コスト・コアSPDRポートフォリオETFシリーズの一つです。
・高水準の配当収入および元本成長の機会を追求する低コストETFです。
・指数は、S&P500指数を構成する銘柄のうち、配当利回りの上位80銘柄のパフォーマンスを計測する指標です。

SPDRポートフォリオS&P500®高配当株式ETF ファクトシート より

ベンチマークである「S&P500高配当指数」の名前が示す通り、S&P500銘柄の中で、特に配当利回りの高いものを選び出したのがSPYDであるということです。
このあたりの戦略は、ダウの犬戦略に似ていますね。

このダウの犬戦略、過去データに基づくバックテストで良い成績を示していると言われますが、やってること自体は結構アクティブな操作なのでそれなりのリスクがあることは知っておいた方がよいでしょう。

セクター分布

SPYD構成銘柄のセクター分布(ステートストリート公表データ) より

SPYD最大の特徴は、不動産(リート)を大きく組み入れているという点です。
VYMが多く組み入れている金融、HDVが多く組み入れているエネルギーで上位3セクターを構成し、これらで53.62%を占めています。

組み入れ上位銘柄

銘柄名ティッカー組入比率直近配当率連続増配年数時価総額
1Ventas Inc.VTR1.38%6.81%2年154億ドル
2Welltower Inc.WELL1.37%5.63%0年238億ドル
3CF Industries Holdings Inc.CF1.36%3.62%0年70億ドル
4ViacomCBS Inc. Class BVIAC1.35%3.43%0年162億ドル
5Williams Companies Inc.WMB1.35%7.48%2年252億ドル
6Realty Income CorporationO1.35%4.41%19年216億ドル
7Leggett & Platt IncorporatedLEG1.34%4.09%6年51億ドル
8Broadcom Inc.AVGO1.34%3.80%1年1,310億ドル
9Healthpeak Properties Inc.PEAK1.33%5.17%0年154億ドル
10Iron Mountain Inc.IRM1.33%8.38%2年84億ドル
13.50%
(合計)
5.28%
(平均)
3.2年
(平均)
269億ドル
(平均)

SPYDの組み入れ状況は、VYMやHDVと一線を画しています。
上位10銘柄で13.50%、記載していませんが組み入れ最下位でも1%程度の割合をもっており、組み入れ対象である80銘柄においてほぼ均等な配分となっています。
さらに、組み入れ銘柄の配当利回りは全体的に高く、80銘柄の平均で5%以上の利回りがあります。

加えて、VYMやHDVとわかりやすく異なっているのが、連続増配年数や時価総額の観点ですね。
S&P500から80銘柄を抜き出したS&P500高配当指数に基づくETFですので、SPYDも構成上の基本は大型株と言えますが、上位10銘柄の平均が2000億ドルを超えていたVYMやHDVとは異なり、桁が1つ落ちています。

VYMやHDVで上位に組み込まれる、連続増配57年のJNJではありますが、現在の配当率は2.60%と、SPYDの顔ぶれにおいては見劣りしてしまうために、その低い配当率こそがSPYDにおいて一切組み入れられていない理由ということでしょう。

こうしたところから、SPYDの組成方針として「とにかく配当利回りを高く」というところが強く見えるところですが、その実現のために頻繁な構成変更と、実績や時価総額に囚われない柔軟なファンドコントロールを行っているというわけですね。

値動きの比較

事実調査として、ここ数年の値動きも確認しておきましょう。
この中ではSPYDが最も新しいファンドであるため、SPYDが設定された2015年10月以降の値動きを、S&P500をベンチマークにしながら見てみましょう。

基準価額推移

2015年10月以降の基準価額推移(TradingView

黒がS&P500緑がVYM青がHDV黄色がSPYDです。

各ファンド、配当に注力する分、キャピタルゲインとしての値動きはS&P500に見劣りしますね。
とはいえ、それぞれ米国株式であるということもあり、基本的には似たような上下の値動きをしています。

その中で、高配当ETF3種の値動きに着目すると、コロナショックを受けて大きく値下がりしたSPYDが特に気になります。
この値下がりの影響から、現時点でも唯一2015年10月時点の価格より下げている状態となっていますが、このあたりは高配当重視で組成したことの裏返しかと思われます。
リセッションの局面では、小型株のほうがより売られやすいと言われますので、超大型株中心で組成するVYMやHDVのほうがまだ戻しが早いように見えます。

こうしたショック耐性についてはこの差が明確になった3月頃に注目されており、低迷を嘆く声や、低迷によってさらなる高利回りとなったことから盛んに買い増しするなど、いくつか反応があったように思います。

トータルリターン推移

一方で、SYPDは他よりも高い配当を出しているため、配当込みのトータルリターンであればまた違った見え方になるかもしれません。
同じく2015年10月以降で、配当込みのトータルリターンをグラフ化したのが以下です。

2015年10月以降のトータルリターン推移(ETFreplay.com

…と思ったところですが、やはりこちらでもSPYDが見劣りする結果になっていますね。
こちらも先ほど同様、黒がS&P500緑がVYM青がHDV黄色がSPYDとなっています。

ボラリティもこの期間で最も高くなっており、SPYDにとっては全体的な不安定さを露呈させることとなったコロナショックという印象です。

個人的な高配当ETFの選び方

ここからは個人的な考えとなりますが、今回の調査を通じて改めて高配当ETFの選び方を整理したいと思います。

高配当ETFに求めるもの

ほとんど全ての考えにあたりますが、今回のVYM/HDV/SPYDといった高配当ETFに対して求めることは、インカムゲイン資産としての「安定的な利益確定」にあると私は考えています。

このことは以下の記事で詳しく整理していますので割愛しますが、安定的であるということは、高配当ETFを選ぶ上で私にとってはとても大事なことだと考えています。

安定的なETFはどれか?

安定的という観点で、改めてこの3つのETFを見ると、真っ先に脱落するのはSPYDになると思います。

やはりコロナショックを受けたボラリティの大きさもさることながら、組み入れ銘柄において5%や6%が平気で並ぶ組成方針を見ると、その裏返しとしての不安定さと向き合わざるを得ず、避けたくなる特徴だなと思います。
また、配当利回りの高さが魅力的な一方で、不安定さを許容するのであればS&P500であったり、さらにはQQQなどを選ぶことではるかに高いトータルリターンを得ることができますので、SPYDの選択はどうしても中途半端に思えてしまいました。

あとは、残るVYMとHDVのどちらを選ぶかというところですが、この2つに対しては正直好み程度の違いかなと思います。
結論から言えばVYMを選ぶのですが、

  • より低い経費率
    • 加えて、バンガードの低コスト精神への信頼
  • より高い分散性
    • 構成銘柄400と、上位10銘柄で合計25%という高い分散性
  • より大きな純資産総額
    • HDVも十分に大きいものの、規模によるさらなる低コスト化が見込める
  • より高いリターン実績
    • ここ5年程度に関してはVYMのリターンがわずかながら優れる

というところがポイントになるかなと感じます。
このほか、人によっては金融に注力するVYMエネルギーに注力するHDVと、セクター分布の好みがあるのかもしれませんが、私はあまり気になりませんでした。

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より一般的な選び方

先ほど、私はインカムゲイン資産として「安定的である」ことを最大の理由としてVYMを選びました。
それでは逆に、各ETFを選ぶときの理由はそれぞれ何になると考えられるでしょうか。

主な選択理由関連指標
VYM安定性・純資産総額
・構成銘柄数
・平均時価総額
HDV安定性
高配当性
・平均時価総額
・配当利回り
SPYD高配当性
(購入容易性)
・配当利回り

非常に端的に言ってしまえばこのようになるでしょうか。

VYMとSPYDはこの3種の中では性格がはっきりしています。
VYMはファンドとしての大きさや、構成銘柄の大きさからくる安定性が強みです。
対してSPYDは、そうしたものを犠牲にしてとにかく高い配当利回りを実現しています。ちなみに、あまり触れていなかったのですが、SPYDはこの3種の中で株か水準が最も低く、VYMやHDVの1/3程度で推移しています。これは単純に歴史が浅いことによるものですが、1株単位で購入するものである以上、「買いやすさ」という点ではSPYDが最も優れていると言えるでしょう。

そうした中で、じゃあHDVはどうなるのかというと、良くも悪くも中間ですね。
VYMよりは配当利回りが高くなりますが、銘柄数はより絞られるため、分散性による安定性は少し下がると言えるでしょう。しかし、見てきたように平均時価総額はVYMと大差ないですし、増配実績なども十分にあるため、ある程度の安定性と高配当性を両立させたのがHDVであると言えるでしょう。

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まとめ

既にVYMへの投資をしていましたので、結論ありきのような考察になったのかもしれませんが、色々自分の頭で考え、調べていくことで自分の考えをまとめることができました。
自分で調べることで、連続増配年数や時価総額での特徴にも新しく気づくことができ、まとめた価値がありました。

高配当と言うからこそ、配当利回りの高いSPYDを選んでいる方も多いと思いますが、個人的にはあまりいい評価をしていなかったことと、そこまで悪くないと思っていたHDVについても、以前に整理した「安定的な利益確定」をキーワードに、組み入れ上の偏りをポイントにして、VYMとの違いを意識できるようになり、頭がすっきりしました。

この3種のETF比較については、冒頭でも触れたように多くの個人投資家が考えられているため、特段私が新たな考察をする価値はなかったのかもしれませんが、自分自身の投資方針や価値観を再認識し、整理できるいい機会になったと思います。

その他の高配当ETF

今回は最もメジャーであろうVYM/HDV/SPYDを取り上げましたが、他にもいくつかのETFが今回のような議論で比較されることがあります。

これらもいずれ同様に調査したいと思っていますが、今回は名前だけを挙げて終わりにしたいと思います。

また、米国ETFばかりを取り上げていますが、日本にもわずかながら高配当ETFが存在します。

結果的にVYMを選んでいるため、過去に調べた時点で選択しなかったものではありますが、これらの魅力も調べていくことで、自分の考えをよりシャープにしていきたいですね。

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