昨今、自身の老後のためにマネーリテラシーが重要だと言われて久しいですが、マネーリテラシーが支えるのは何もお金を増やすだけではありません。
マネーリテラシーにはお金が減らされるのを防ぐような守りの側面もありますが、今回は詐欺の事例を学ぶことで自らを守るマネー感覚を養ってみましょう。
Contents
簡単なまとめ
最初に「自らを守る」ためのポイントを挙げておきます。
自分のお金を使ったり、預けたりする方法を考えるとき、こうしたポイントがあるものは一層の注意力を働かせたほうがよいでしょう。
- 元本保証
- 高すぎる利回りの保証
- 具体的な投資方法が不明確
- こんなうまい話が自分に回ってくる当然性がない
これらのポイントを念頭に、どうしてそれが危険なのか、どうやったらそれを感知することができるのかについて気にしながら読んでみてください。
お金を減らされること
冒頭でも述べたように、マネーリテラシーは自分の人生を支えるためにとても重要な素養です。
当サイトでもっぱら話題にしている、「お金を増やすこと」「お金を増えやすくすること」が重要なのはもちろんのこと、それと同じくらい「お金を減らさないこと」も実は重要です。
お金を減らさないことといえば、日々の支出を最適化することや、浪費を抑えることなどがよくFPへの相談においてもよく語られます。こうした身の回りの最適化は、お金の見直しをする際にはほとんど最初に着手すべき内容で、話題になりやすく、また実感もしやすいものです。
そういった守りの中でも、「悪意から自分のお金を守る」という観点は、以前記事でも取り上げた金融リテラシーマップであったり、バビロン大富豪の教えにも出てくる内容として古くから重要視されているものです。
- 金融リテラシー・マップをみてみよう
- 「金融取引の基本としての素養」において、「詐欺など悪質な者に狙われないよう慎重な契約を心掛ける」というリテラシーがあります
- 書評: 漫画 バビロン大富豪の教え
- 七つの道具の中に「危険や天敵から金を堅守せよ」という教えが出てきます
このことを踏まえ、ニュースでも有名になったいくつかの投資詐欺についてその構造や、詐欺ポイントを調べてみましょう。
詐欺とは
言うまでもありませんが、一応詐欺とはなんだということを思い出してみましょう。
詐欺【さぎ】
goo辞書「詐欺」 より
1 他人をだまして、金品を奪ったり損害を与えたりすること。「詐欺にあう」「寸借詐欺」「振り込め詐欺」
2 他人を欺く行為。民法96条では「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる」とする。→詐欺罪
とにかく、何かを偽ったり、騙したりすることで他人から金品を奪ったりして損害を与える行為のことですね。広義には損害を与えるだけでも詐欺にはなるようですが、やはり守るという観点からは「金品を奪われる」場合の詐欺を考えてみます。
主な詐欺形態
世の中には驚くほど多くの詐欺が存在し、またそれは日夜新しく生まれるものでもあります。
そんな様々な詐欺の形態がWikipediaにまとまっています。
振り込め詐欺 / 結婚詐欺 / 美人局 / 保険金詐欺 / 投資詐欺 / ねずみ講 / …
調べてみると非常に多種多様な詐欺形態があり、それぞれで「何を偽るか」というところに特徴と巧妙さが伺えます。
主な投資詐欺
中でも、今回ははまったときに厄介な投資詐欺について、いくつかの具体例と詐欺のポイントをみてみます。
海上保安庁における投資詐欺
2019年に報じられたニュースです。
被害の中心は海上保安庁の若手となっており、その勧誘にあたってはOBが絡んでいるなど、閉鎖的コミュニティにおいて次々と被害が拡大した事例です。
この事件においては、海上保安庁という信用を利用し、消費者金融からお金を借りて投資を行わせていたこともあり、被害額としても大きなものとなっています。
お金を借りて投資をするということはかなりのリスクを感じますが、このとき
元職員らは、投資案件を紹介するセミナーへの参加を促すほか、高級飲食店で現役職員らに食事を提供して金回りの良さを強調。「130万円が1年後には3000万円になる」などのうたい文句を信用した20代の現役海保官の間で広まっていった。
海上保安庁内で詐欺的投資横行か OBら勧誘、若手退職者相次ぐ(産経新聞) より
という触れ込みで安心を演出していたようです。
ところで、130万円が3000万円になるとすると利回りにして「年利2207%」という驚異的な数値になります。少し投資の勉強をしただけで、これがいかに非現実的なものか分かると思いますし、もう1年再投資することを考えれば、
130万円 → 3000万円 → 5.3億円
ということとなり、「130万円が2年で5億円」という投資だということになってきます。そんな投資があればほとんど誰でもリタイア生活が可能ですね。
もちろん、こうやって第三者の視点で聞くだけでは「こんな話を信じるなんてバカな」と思われるかもしれませんが、例えば
- 信頼できる先輩からの話である
- 先輩が「後輩にだけ特別に…」と持ち掛けられた
- 先輩たちの金回りがよく、確かに投資で利益を得ていそうだ
- この話を聞けるのは一握りの人間だけであるから、聞いたことがなくて当然
- …
などと、時間をかけて自分の常識から壊しにかかってくるとしたら…とリアルに考えると、本当に自分を保ち続けられるでしょうか。
特にこの例では最初に触れたように、「閉鎖的コミュニティ」において蔓延したものだというのがポイントです。コミュニティ内には同調圧力が生まれやすいのはもちろん、リークがない限りは外部からの批判の声が届かず、根拠を求めない信頼感が形成されやすい土壌です。そうした同調圧力や信頼感から、「この話を信じないってどういうこと?」みたいなテンションに集団としてなりやすく、思考停止を伴って投資詐欺が蔓延しやすい特性を持ちます。
典型的な投資詐欺ですが、単なる利回りの良さだけでなく、こうした外堀の埋め方にこそ巧妙さのある事件だと言えるでしょう。
KING事件
先ほどは閉鎖コミュニティにおける投資詐欺でしたが、こちらは記事タイトルにもあるように述べ1万3000人を騙した多くの被害者が存在する大規模な投資詐欺事件です。
主犯となった “KING” が大規模で華やかなイベントを立て続けに開催し、信者のような出資者を募って社会的な意義を喧伝し続けていくことで、信頼と熱狂の渦に被害者を巻き込んでいった劇場型の投資詐欺であったことが大きな特徴です。
先ほどの年利2207%に比べるとずいぶん控えめに見えてしまいますが、こちらは月利3%、年利にして36%になる利回りを謳っていました。これは約3年で元本相当額が積みあがるという水準です。
また、こちらでは「月利」であることに加えて、「元本保証」を謳っていたことも特徴です。
先ほどの事件では、閉鎖的な空間でいかに話を信じ込ませるかが鍵でしたが、こちらは開放的な空間でいかに信者を熱狂の渦に巻き込むかが鍵となっていました。
プロが分析するその手口
1万3千人を騙した「KING事件」 460億円を集めた手口をプロが分析(デイリー新潮) より
「“友人からの紹介”を重視し、“みんなで”というのを強調していたのが、巧妙だと思いました」
と、田中こと銅子らの手口について述べるのは、一般社団法人、日本防犯学校学長の梅本正行氏である。
「信頼のおける人から紹介され、“私も配当をもらっているから大丈夫”と励まされれば、その気になってしまう。特に不安を抱えている高齢者は“みんなで幸せになりましょう”と言われながら、食事したり旅行をしたりするうちに仲間ができた気になり、“みんながKINGを支持しているのだから大丈夫だろう”と錯覚してしまうのです」
こちらも大まかな詐欺形態としては、出資金から配当を一時的に出して信じ込ませるという典型的なものでしたが、主犯格のカリスマ性など集団心理を巧みに操った詐欺の形態をとったことで、総額460億円にもなる巨額詐欺事件へと発展しました。
こちらも文章で読むと淡々としていますが、一字一句をその時の情景や考え、心情とともにじっくり読み解いていくと非常におそろしい事件です。
ポンジ・スキームと最大の投資詐欺事件
先ほど紹介したKING事件は、投資詐欺の手法としては「ポンジ・スキーム」を用いています。
ポンジ・スキームとは、
- 出資金を運用せず、出資金を取り崩す形で偽りの配当を出し続ける
- 配当が出ている信頼をもとに、さらなる出資者を募り、規模を拡大する
- 一定額の出資金が集まった時点で消息を絶つ
ことを主軸にする詐欺手法です。
先ほどのKING事件においては月利3%でしたが、これをポンジ・スキームに利用すると33か月以内に出資者を増し続けていけば、かなりの期間で「配当を出し続ける」ことが継続できます。
いかに非常識な利率であったとしても、「元本保証」「いつでも解約可能」などと添えておけば、最初に数回配当を受けたことですっかり信じ切ってしまうことでしょう。
遅くても1年、早ければ数か月で他の人に勧めようとする人が多数出てくるはずです。さらにここでネズミ講のように「人に勧める」という行為にインセンティブをもたせておけば、さらにその動きは加速するでしょう。
当然、これは詐欺なのでいつかは限界がきますし、本来「人のお金を運用する」ことには厳しい法制約がありますので、「実際には運用していない」ことを隠し通すことも難しいものです。
しかし、単純であるがゆえに強力なこの詐欺形態はたびたび世の中を騒がせており、過去最大の被害を生んだポンジ・スキームではなんと5-6兆円の被害規模であると言われています。
このマドフは生来の詐欺師ではなく、元々は証券会社を創業した実業家として知られていました。
その信頼は市場全体に及んでおり、一時はあのNASDAQの会長を務めるなど、ポンジ・スキームによる詐欺でありながら高い成果を挙げつつづける優れた投資家としての名声を得ていたというのですから驚きです。
最終的に、この詐欺はリーマンショックを受けた資金引き上げの動きが引き金となり、数十年に及ぶ巨額投資詐欺が明らかになっていきます。
この事件の異様さは被害が一般人に留まらず、金融のプロフェッショナルである機関投資家にも及んでいたということで、被害者のリストには日本の生命保険会社も数多く名を連ねています。
どうすれば投資詐欺を回避できるか
さてそうなると、どうすれば投資詐欺を回避できるかということが気になります。
もちろん、詐欺のポイントはそれぞれですので、回避方法も異なってきますが、基本的な観点として
- 元本保証
- 高すぎる利回りの保証
- 具体的な投資方法が不明確
- こんなうまい話が自分に回ってくる当然性がない
ことが注意ポイントに挙げられます。それぞれの考え方をみてみましょう。
元本保証
まず注意すべき点は元本保証です。
元本保証自体は珍しいものではなく、銀行預金や国債など元本保証のものは世の中に多くあります。
しかし、問題は「元本保証とどの程度の利回りがセットになっているか」です。
世の中にある投資のほとんどは、元本割れする危険性を抱えています。
しかし、それはハイリスク&ハイリターンという言葉があるように、「高いリターンを得るには、高いリスクを受け入れざるを得ない」という原則に基づくものです。
世の中の投資家は、日夜様々な投資手法を比較しながら、「どうすればより少ないリスクで、より高いリターンを得られるか」を本気で探しています。
そんな中に、ノーリスク&ハイリターンな投資方法が現れたら、誰もがそこに殺到し、それを使わない手はありませんが、そうなっていない以上、信頼性に欠けるということです。
原理的には、元本保証を謳いつつ、利回りが保証できるのは国債がベースになっているものが多いと思いますので、今の日本であれば0.05%の利回りが元本保証とセットにする場合の判定水準になると思います。
このことを思うとKING事件の月利3%で元本保証がいかに非常識な水準かということがよくわかりますね。
高すぎる利回り
また、リスクを謳っていたとしても、高すぎる利回りを保証することにも注意が必要です。
世界一の投資家と呼ばれることも多い、ウォーレン・バフェットですが、50年にわたる投資家としての成績は年利23%程度になる計算のようです。
世界一の投資家で23%という成績であるため、20%を超える利回りを保証している投資があったとすれば、それはまず疑ったほうがよいものです。
ただ、ここで誤解しないでほしいのは、「単年で23%の成果を出すことが不可能」と言っているわけではなく、「長期的に毎年23%の成果を出し続けること、それを保証することが不可能」ということです。
株式市場では日々ストップ高になる銘柄がありますが、それらを上手く掴むことができればそれだけで23%を超える成果を得ることは可能です。しかし、当然それはインサイダー情報でもなければ短期的なラッキーのようなもので、その利率を長期的に保証するということは並大抵のことではありません。
こうした観点から、高い利回りを謳っているものがあったときには、長期的には株式インデックスなどでみられる年利7%付近が現実性という意味では一応の目安になるでしょう。
そうした7%にしたってリーマンショックやコロナショックなどの経済ショックで-50%になることもあるので、利回りを保証するとなれば、貯蓄保険における予定利率のようにかなり保守的な数字と長い時間を織り込む必要があります。
こちらはちょうど先日出たニュースですが、企業年金の運用を担う第一生命が長期的な見通し不安に伴い、予定利率を1.25%から0.25%へ大きく引き下げたものです。
こちらは長い時間を前提とした元本保証の形態ですが、利率を保証するためにはこれだけ厳しく見通す必要があるということですね。
具体的な投資方法が不明確
さてここからは少し曖昧な話になっていきますが、「投資方法が不明確」なことにも注意が必要です。
多くの人にとっては、リテラシーのある人が勧める投資の方法と、悪意のある人が勧める投資詐欺の方法が同じに見えることも多いでしょう。
前提として理解すべきなのは、それだけ投資方法を見分けるのは難しいということです。
もちろん、スマホの仕組みなどを最たるものとして、「仕組みを知らなくてもその恩恵に与ることができる」ものは多くあります。
しかし、こと投資において「儲かる仕組みを知らないものに投資する」のはかなり注意深くなったほうがよいと言えます。
目先の利益に目がくらむことや、投資への信頼性を「紹介者の信頼性」で代替してしまい、仕組みの理解が疎かになることは多々ありますが、可能な限り仕組みを理解することが自分を守ることに繋がるということは心に留めておくべきでしょう。
こんなうまい話が自分に回ってくる当然性がない
これは多くの「うまい話」に当てはまることですが、「そんなうまい話を人に話して、この人は何のメリットがあるんだろう?」と考えるのはとても重要なことです。
親族や友人など、一部の関係を除いては、「赤の他人にメリットを与える行為」には金銭が絡んで然るべきものです。
もちろん、ボランティアなど金銭が全てではない領域もありますが、一般的な社会活動においてはほとんどがそうなっていると思います。昨今は様々なことに対する無料相談ができたりもしますが、それも結局は相談結果としての提携サービス成約料として紹介料をもらっていることが普通です。
投資詐欺においては、そうした違和感を「善意」「特別」「選ばれた人だけ」などといって誤魔化そうとしますが、詰まるところ何のメリットがあるということですね。
むしろ、双方のメリットを明らかにしないほうが昨今では不誠実な態度であるとも考えられるため、素直にメリットを尋ねてお金以外の答えが返ってきたとしたら疑うほうが自然かもしれません。
まとめ
今回はニュースでも話題に上がった有名な投資詐欺事件を題材に、いかに詐欺から自分のお金を守るかということを考えてみました。
こうした第三者の目線で事件をまとめてしまうとなんてことはないですが、いざこの渦中に巻き込まれたとしたら、はたして自分はまともな頭で居続けられるでしょうか?
だからこそ、自分を守る根源的な素養として金融リテラシーが大事だったり、古くから伝わわるお金の教えに「悪意から自分のお金を守る」なんてことが入っていたりするわけです。
いつの時代も新しい詐欺が生まれますが、「お金の増え方」に画期的な発明がなされることは少ないです。
ですので、自分の中にそうした変わらない基準を大事に持つことで、見慣れないものに直面した場合にも一呼吸を置き、少しでも冷静に向き合えるようにしていきたいですね。
参考記事
今回はこのうち、詐欺から身を守る部分を特に話しましたが、全体的に知っておいて損のない内容が金融庁の金融リテラシー・マップには詰まっています。
こちらも7つの道具のうち1つを引用しましたが、残り6つの道具であったり、5つの教えについても知る価値があります。
詐欺を回避するところで少し触れましたが、「年利10%」が常識的か、非常識的かはこうしたパーセント感覚が必要になるところですので、こういったものを頭に入れておいても良いかもしれません。