考えていないようで考えられているSNS型投資詐欺

いつの時代にも存在する投資詐欺。時折ニュースになってその手口が明らかになりますが、その度に手を変え品を変え、時事ネタを取り込みながら新しい手法が生まれていきます。

ある日勝手に追加されたLINEグループを動きをじっと観察し、最新の投資詐欺手法を紐解いてみることにします。

SNS型投資詐欺とは

投資詐欺とは、被害者に何らかの金銭的利益を謳って投資に誘いながら、実際には投資を行わずに金銭をだまし取る行為を指します。このブログでも以前投資詐欺全般の記事を書いたことがありますので、そちらも参考にしてみてください。

そうした投資詐欺のトレンドのひとつに、LINEやFacebookを用いたSNS型の投資詐欺があります。

SNS型に限らず、投資詐欺のテクニックとして「被害者の考えを限定し、半ば洗脳することで詐欺そのものの成功率や、周囲への相談によって露見・失敗する可能性を下げる」といったものがありますが、一定の閉鎖コミュニティを作るSNSとは非常に親和性の高い面を持ちます。

以前は物理的な閉鎖空間を利用せざるを得なかったところ、SNSの登場によってインターネット空間でも投資詐欺が繰り広げられるようになりました。一般的な目線では犯人グループの情報が露見しないことも都合のよい面となっています。

今回はそうしたSNS型投資詐欺のうち、私が実際に入れられたLINEグループの様子を振り返りながら、そのテクニックを読み解いていきたいと思います。

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とあるLINE投資詐欺の例

いつものようにLINEを利用していると、ある日見知らぬLINEグループに招待されました。

なお、設定によって知らない人のLINEグループ勧誘を無効化することもできるので、こういった形で巻き込まれるのはそもそも脇の甘さに起因します。投資詐欺を観察する趣味でもなければ無効化しておきましょう。

というように、LINE側も友だち以外からのグループ正体は基本的に疑っているので、こういった警告とともにはじまります。私も普段はこのままブロックしておわりなのですが、年末の暇な時期であったこともあり、このまま見守ってみることにしました。

なにやらすごい人らしい

いきなり追加された中でなんだなんだというところですが、どうやらすごい人らしいです。

ちなみにこの方の名前で検索すると怪しいブログが1件ヒットしますが、それ以外で実在する感じは見当たりません。この画像の人はいったい誰なんでしょうか…。

割とまともな投資講義(~2週間)

とりあえず怪しいという気持ちは抑えつつ、もう少し様子をみていると、本当に投資講義がはじまります。

果たしてこれが講義なのかという面もありますが、書いてること自体は(どこかからコピペしたものでしょうし)間違っていないです。LINEグループがはじまってしばらくは、こうした教科書を投げつけるような投資講義が2週間ほど続きます。

最初は用語解説のような投資講義にはじまり、そのあとはこういった横文字の多いテクニカル手法の解説に移っていくようです。ちなみにこういうタイミングで使われるチャート画像はちゃんとそのタイミングで最新のものが使われています。

そして雲行きが怪しくなる株式市場(3週間ごろ)

そうした流れで株式投資の手法を小難しく講義する中で、なんとなく「日経がよくない」といった雰囲気が作られ始めます。大体ここまでくるのに3週間程度かかりました。

このとき、実際に日経が良くないかというとそんなことはありませんが、皆さん口を揃えて日経がよくないとか売ろうと思いますとか、そんな感じで会話をしていきます。

殺伐とした株式市場に先生が!(3週間ごろ)

こうした「株はだめそうだ…」という雰囲気の中で、先生が颯爽と登場します。

要するに「株はよくないがFXはいい」という話です。そしてこのあと、先生の先生という人まで現れ、FXの良さを語ってくれます。

どうもこの先生の先生は、FX事業者に顔が利くようで、この投資教室の生徒限定で手数料の優遇をしてくれるよう交渉してきたようです。ありがたい話ではありませんか。

取引は先生の言う通りに(4週間~)

こうした流れでFX取引をはじめた生徒たちは、先生の指示(通貨ペア、買い or 売り)通りに、そのタイミングで取引するように言われます。

するとどうやら、ものの数時間で数百ドル~数千ドルを儲けられたという報告が相次いできます。こうした取引指導は概ね毎日行われ、その度に喜びの声と次の取引指導を待ち望む声がグループ内に溢れるようになります。

そうした声に応えつつも、先生からは同じFX業者を使うことや、個別チャットへの誘導が続きます。

さよならは突然に(8週間ごろ)

FXの取引指導や個別チャットへの勧誘がはじまる4週間ごろ以降、日々の取引指導があるくらいでそれ以上真新しいことは起きなくなります。

そして最終的に開始から8週間ほどが経過した頃、一定の成果が得られたとしてグループ解散の旨が伝えられます。希望者はVIPグループなるところに移籍し、継続して先生の指導を受けられるようです。

このあと、本当に新規メッセージが届かなくなるので、これで一区切りのようでした。

随所に散りばめられた詐欺テクニック

それではこうした一連のやり取りの中に隠されたテクニックを振り返ってみましょう。

①基本的に怪しい文章

それがテクニック?と思われるかもしれませんが、サクラ生徒を含めて怪しい文章が飛び交っており、これは「明らかに怪しいものでも立ち止まれない人」を選別するためのテクニックと言われています。

こうした詐欺を演出する際には、どんな人でも引っ掛かりうるリアルかつ緻密なシナリオが良いように思いますが、実は正反対で、最初の一手をダイナミックに選別することが有効になります。

今回のLINEグループは100人越えで構成されており、うち少なくとも20人ほどがサクラ生徒であったとしても、80人くらいは純粋にターゲット候補にされている人たちになります。もちろん、そういった人の多くは、冒頭で触れたように、LINEの警告にそってすぐブロック・グループ脱退していきますが、そういったアクションを取らない人のほうが警戒度が低く、詐欺に引っ掛けやすい性質を持っていると言えます。

そのため、少しでも警戒度がある人は早々に離脱してくれてよく、「数打ちゃ無警戒な人に当たる」といった状況にするためにも、基本的に怪しい文章が使われるようになっています。

②根拠はないが周囲が賛同的

これはよくある詐欺手法ですが、サクラを置いてそうした人に信頼感を演出させる方法です。

素性も知らない第三者が「安全そうですね」って言ったところで何の保証になるのだというところですが、これも①と同じく、それで良しと思ってくれるカモをスクリーニングする手法の1つです。

ちなみにこの要素は最終的に詐欺FX業者に誘導する際、「業者名でググられない」っていう部分の担保にも繋がっています。みんながいいと言ってるならいいだろう、っていうスタンスを持っていることは非常に重要なポイントです。

③とにかく小難しい株式投資講義

最初の1か月くらいの間に展開される投資講義ですが、これはとにかく分かりにくいように工夫されています。画像の例で挙げた「ETFと投資信託の違い」なんかもそうですし、「MACD」「デッドクロス」「RCIオシレータ」などよくわからない横文字用語が無機質に並びますが、本来的な意味で投資教室の留まる人がいたとして、到底理解できるはずもない説明が連発されます。

これはこの投資詐欺の着地点をFXに置いている一方、最も有名な投資のひとつである株式投資から遠ざけるためにわざと難解な印象を与えているためだと思われます。
画像としては省きましたが、株式投資とFX投資の差として「株は数千銘柄から選ばなければならないが、FXは高々数十の通貨ペアを選ぶだけでよい」というような説明から、私にもできるかも、みたいな印象を与えようとしていることが分かります。

④投資に対する憧れを演出

こうしたLINEグループにおけるメッセージのやりとりは基本的に毎日続きますが、市場の開いていない土日などはサクラ生徒同士の他愛ないやりとりがあったりします。

こういう日常的なランチ風景からはじまり、最終的には投資で得た資金で車を買いました、といった「投資のメリット」がさりげなくアピールされ、私もやってみたい/そちら側になりたい、といった心がくすぐられるようになっています。

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実際に引っかかるとどうなる?

ここからはさすがに実体験ではないですが、今回の詐欺に引っかかるとどうなるかというと、

  • 先生推奨のFX業者で口座を作る
  • 個別指導を受けるべく直接のLINE友達になる
  • FX業者に入金を行い(最低5万円)、実際に取引を行う
  • おそらく口座内で資金は増えるが、出金できない状態を告げられる

ような流れになることが想定されます。

実際、グループ内で出てきたMGL globalという名のFX事業者ですが、少しググってみるとすぐに詐欺業者らしいことがわかります。

注意:WikiFXでの評価が低すぎます、利用しないでください

  • このブローカーには現在、有効なライセンスが確認されていません。リスクにご注意下さい!
  • 現在の情報は、このブローカーが取引ソフトウェアを持っていないことを示しています。注意してください!

実際どこまで手が回されているかはわかりませんが、ある程度を信頼を得るまでは先生の言う通りにして勝てるようなヤラセサイトになっている気がします。

そうして、多額のお金を入金していくように仕向けるわけですが、ネット上の事例をみているとその後「マネーロンダリングの疑いがかけられており出金できない」「疑いを晴らすためにさらなる入金が必要」などと言われ、最終的には音信不通で逃げられる、ってシナリオになるようです。

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当たるとでかい投資詐欺

ということで、およそ引っかかる気がしないクオリティの投資詐欺を、数か月という期間をかけてでも行う理由には、とにかく当たるとでかいという性質があるからだと思われます。

こうしたものは一度信頼を得てしまえばいくところまでいくもので、こういうものに引っかかる人ほど投資経験がなく、歯止めが利かないようなケースが多く存在するようです。
そのため、それまで投資をひとつもやらずにコツコツ貯めてきた預金を際限なく注ぎ込んでしまい、数百万数千万とのめり込んでいってしまうこともあるでしょう。

確かにこの一連の投資詐欺にかかる期間は短くはありませんが、物理的な制約がなくいくらでも並行できるため、そうした数多くの投資詐欺の中で1人でもひっかかってくれれば元が取れるという目論見です。

普通のサラリーマンが1年間例えば1年間毎日働いてやっと500万円を得るとして、それが数か月のメッセージやり取りで期待できるというなら、十分リターンが見合うというわけですね。

最後の最後は個別チャットなどでフォローしなくてはならないと思いますが、それまでのテクニックによって相当警戒心が薄く、かつ他人を信じやすい人に選別できているはずなので、労力と成功率のバランスが良くなるように積み重ねられてきていることになります。

まとめ

こういった「知らない人にいきなりグループ追加される」ということを体験した人は少なくないと思いますが、そうしたことの先にはこういった詐欺の入り口が見え隠れしています。

おそらくこの記事を最後まで読むことができている人はそうそう引っかからないかと思いますが、そういった「さすがに引っかかるわけないでしょ」なところも含めて、被害者を上手くスクリーニングしているのがこういった詐欺の侮れない部分です。

今回は投資分野の話だったので、投資をある程度知っている人であれば自分の知識だけでも見抜ける部分があると思いますが、仮にこれが自分の不慣れな分野だったら?それでいてどこか興味のあるものだったら?などと考えていると、意外と自分でも絡めとられてしまう何かがあるかもしれません。

旨い話には裏があると言いますし、儲け話が自分から近寄ってくることなんてない、ということを改めて肝に銘じておきましょう。

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