国内に6000本以上あると言われる投資信託ですが、つみたてNISAなどで投資が広まるにつれ、新しい商品のリリースも活発になってきています。
中でも、悩ましいのが「同じようなより良い商品が出た」場合の対応ですが、今回はそれを考えてみましょう。
Contents
簡単なまとめ
先に結論を端的にまとめておきます。
今回考えるのは、投資信託の投資において「同じようなより良い商品が出たらどうすべきか?」という問題ですが、以下のような結論になります。
- 課税口座でこれまで買った分に関しては、(ほぼ)乗り換えなくてよい
- 含み益が少ない段階では乗り換えても構わない
- 課税口座でこれから買う分に関しては、乗り換えたほうがよい
- ただし、信託報酬が十分に低くなった最近のファンドにおいて効果は限定的
- 管理するファンドが増える手間も勘案して考える必要あり
ただし、iDeCo等の確定拠出年金(DC)口座、NISAやつみたてNISAなどのNISA口座といった非課税口座においては以下のようになります。
- DC口座でこれまで買った分に関しては、乗り換えたほうがよい
- DC口座でこれから買う分に関しては、乗り換えたほうがよい
- NISA口座でこれまで買った分に関しては、(ほぼ)乗り換えてはいけない
- NISA口座でこれから買う分に関しては、乗り換えたほうがよい
それでは、その理由を詳しくみていきましょう。
より良いインデックスファンド
冒頭で「より良い商品」と簡単に言っていますが、一般に投資信託の良し悪しを比較するのは並大抵のことではありません。
株式と債券、日本と海外など、一概に良いとか悪いとか言えるものでないからです。
しかし、以下の条件の中で比較するのであれば、それを良しとしても差し支えないでしょう。
- 比較対象と同じ指数に連動するインデックスファンドファンド
- 比較対象よりも低い信託報酬
要するに、「同じ指数に連動するインデックスファンドの良し悪しは、信託報酬の高低に依存する」という立場です。
より詳しく言えば、隠れコストやトラッキングエラーの観点など、信託報酬のみでは易々と論じることができないケースもありますが、信託報酬が重要な要素であることに間違いはないため、まずは信託報酬によって良し悪しを判断することにしましょう。
インデックスファンドの乗り換え検討
そうした観点で、現在保有するインデックスファンドよりもより良い商品がリリースされたとしましょう。このとき、考えるポイントは2つです。
- これから購入するファンドを変更するか
- 現在保有するファンドのスイッチングを行うか
そうしたとき、これらのポイントの組み合わせから、取りうるアクションは以下の3つです
新規購入を変更する | 新規購入を変更しない | |
---|---|---|
既存スイッチングする | ①完全乗り換え | ― |
既存スイッチングしない | ②新規分のみ乗り換え | ③何もしない |
一応パターン的には「現在ファンドをスイッチングするが、新規購入は変更しない」っていうものもありますが、支離滅裂なのであり得ないパターンとしています。
この3パターンについて、どの手段を取るのがよいのか、そして判断基準となるものは何かをもう少し踏み込んで考えてみましょう。
これから購入するファンドを変更するか
まず、簡単なほうから考えてみましょう。
現在積立なりで購入しているファンドがあり、信託報酬の面でより良い商品が見つかったとしましょう。
結論から言って、これから購入するファンドに関しては、それが現在のファンドよりよいものである限りは変更したほうがよいです。
これまで積立なりをしてきたファンドから変更するのは少し気になるかもしれませんが、比較においてより良いと判断したのであれば、これからの視点ではそれが全てだということです。ここは迷わず変更しましょう。
もちろん、朝令暮改のように色々な商品を買い漁っていくと複数商品を管理するのが面倒になる面はあるので、それは単純なコスト優位性だけで右往左往すべきではない点には注意すべきかもしれません。
現在保有するファンドのスイッチングを行うか
もう1つのポイントが、検討時点で保有している分についてです。
スイッチングとは要するに、今の保有分を売却して、新しい商品で買い替えることを指しますが、売却時に税金がかかる点に注意が必要です。
一般に、投資信託の運用益に対しては約20%の税金がかかりますから、「乗り換えにあたり含み益の20%を犠牲にしてでもコスト改善する価値があるか」というのが基本的な考え方です。
この考えで損得を計算するには、
- 対象商品の期待リターン
- スイッチング時の含み益率
- 現在商品の信託報酬
- 切替商品の信託報酬
- 運用期間
が必要です。計算はそれなりに面倒なので、以下に計算フォームを作成しました。
色々な数字を入れてみるとわかるかと思いますが、非常に微妙な動き方をすることがわかると思います。
デフォルト値では期待リターン5%、含み益率50%、現信託報酬0.5%、新信託報酬0.1%などとして、ようやく20年ほどで「切り替えたほうが得である」ことが見えてくるレベルです。
特にポイントとなるのは切替時の含み益率で、長年積み立てて含み益率が100%を超えてくると、切替後にパフォーマンス改善するケースが現実的にほぼ見つからないようになっていきます。
iDeCoやNISAの場合はどうか
保有分について「売却時に税金がかかる」ことをポイントだとしましたが、それでは売却時に税金がかからない、iDeCoやNISAの場合はどうでしょうか。
まず、商品の切り替えに関して現金を経由しないスイッチングが可能なiDeCo(企業型DCも同様)の場合は、スイッチングのデメリットはないので保有分含めて乗り換えるとよいでしょう。
しかし、個人型/企業型問わず確定拠出年金プランにおいては商品数の制限があるため、ここで言うような同じ指数に連動するより良いインデックスファンドが見つからないことが多いです。
続いて、NISAの場合ですがこれは逆に乗り換えないほうがよいケースが多いです。
というのも、NISAは毎年一定枠まで非課税で投資ができる制度ですが、一度消費した枠は売却によって戻ってこないので、NISA適用された商品の乗り換えについては「非課税の恩恵を捨ててまで切り替える意義はあるか」ということになります。
運用益に対して20%の税金かかるところ、それが0%になるのがNISAなので、それでも乗り換えるとすれば信託報酬等の改善によって20%以上のリターン改善が見込めるということになりますが、一般のパターンでも触れた通り、ほぼあり得ないケースだと言えるでしょう。
インデックスファンドを乗り換えるとはどういうことか?
先ほどまでの検討によって、
- これから購入するファンドは変更したほうがよい
- 現在保有するファンドのスイッチングを行うかは条件次第
ということがわかりました。
とは言え、ここで少し考えてみてほしいのが、先ほど挙げた改善効果のあるケースを代表例として、「信託報酬0.5%から0.1%の商品の乗り換えで悩むようなことが現実的にあるか」ということです。
確かに、コスト競争の中で信託報酬がより安い商品が後から出ること自体は十分にあり得ます。
しかし、現時点で既に0.1%台が主要なインデックスファンドの主戦場となっていますので、こうしたわかりやすい結果が出るほど大きな信託報酬の改善はもはや望めないと考えたほうがよいでしょう。
従って、当初の問いである「同じようなよりよい商品が出たらどうすべきか?」に対しては、まず利益に20%の税金がかかる課税口座においては
- 課税口座でこれまで買った分に関しては、(ほぼ)乗り換えなくてよい
- 含み益が少ない段階では乗り換えても構わない
- 課税口座でこれから買う分に関しては、乗り換えたほうがよい
- ただし、信託報酬が十分に低くなった最近のファンドにおいて効果は限定的
- 管理するファンドが増える手間も勘案して考える必要あり
ということと、DC口座やNISA口座などの非課税口座においては以下のようになります。
- DC口座でこれまで買った分に関しては、乗り換えたほうがよい
- DC口座でこれから買う分に関しては、乗り換えたほうがよい
- NISA口座でこれまで買った分に関しては、(ほぼ)乗り換えてはいけない
- NISA口座でこれから買う分に関しては、乗り換えたほうがよい
対応のパターンから逆算するイメージであれば、
新規購入を変更する | 新規購入を変更しない | |
---|---|---|
既存スイッチングする | ①完全乗り換え → DC口座 | ― |
既存スイッチングしない | ②新規分のみ乗り換え → 課税口座 / NISA口座 | ③何もしない → (該当なし) |
というパターンになります。
まとめ
というわけで、「同じようなより良い商品が出たらどうすべきか?」について考えてきました。
先ほどまとめた結論としてはいくつかのパターンに分かれて表現されていますが、結局のところ大雑把に言えば
- より良い商品があるなら、これからはそれを買えばよい
- かといってこれまでの購入分含めて乗り換える必要はあまりない
ということになります。前者はある意味当たり前の話で、「これからの分はそりゃ良いものを買おう」というだけですね。
その一方で「これまでの分は乗り換えなくてよい」というのは意外かもしれません。しかし、それだけ資産形成の途中で利確し、課税されることはそれなりに大きなインパクトがあるということです。
実際には、「途中で一部課税される」か「最後にまとめて課税されるか」の違いなので、意外と計算フォームで言うところの税引後総リターンに大差ないことが多いのですが、乗り換えた直後は課税分が目減りするところをありありと見ることになるため、精神衛生上もこれまでの分はそのままにしておくほうがいいことが多いでしょう。
いずれにせよ、インデックスファンドにおいては企業間の競争によって信託報酬が十分低い水準になってきていることから、これからのものを含め、血眼になってより良い商品を探し求める必要性も低くなってきているのかも知れません。