2022年の年初から株式市場はやや不安定な様相を示しており、中でもNASDAQ100などの多くを占めるグロース株の下落幅が大きくなっています。
そうしたことから、「グロースからバリューへの転換が起きている」と評する言説も聞かれたりしますので、以前調べたグロース株ETF同様に、米国バリュー株ETFのことを調べながら、バリュー株についての理解を深めてみましょう。
Contents
米国バリュー株ETF
まず最初に、バリュー株という言葉の考え方を調べてみましょう。
バリュー株
バリュー株、日本語で言えば割安株などと言われますが、その言い方の通り「本来の企業価値よりも過小評価されており、本来価値への回帰によって株価上昇が見込める企業の株」のことを指すとされます。
対となるのはグロース株で、こちらは以前調べた通り「今後の収益成長により株価上昇が見込める企業の株」のことですね。
文章上のイメージとしては伝わったかと思いますが、より具体的にどんな状態にある企業の株をバリュー株に分類するのか、バリュー株インデックスの説明からもう少し見てみましょう。
後で紹介するバリュー株ETFのVTVで採用されている、有名なバリュー株インデックスであるCRSP U.S. Large Cap Value Indexの説明を見てみると、次のように分類の観点が記載されています。
CRSP classifies value securities using the following factors:
CRSP U.S. Large Cap Value Index より
・book to price ratio (BPR)
・future earnings to price ratio
・historical earnings to price ratio
・dividend to price ratio
・sales to price ratio
というように、EPS重視であったグロース株評価に対してこちらは現在価格に対しての評価が多くなっています。バリュー株らしいですね。
もっとも、より詳しく指数の構成方法を見ると、それぞれの株に対してバリュー株スコアとグロース株スコアを計算し、それらを使って複合スコア(composit style score)を構成したうえでどちらに入れるかを評価しているようです。
このあたりの詳しい手続きは指数メソドロジーとして公開されているので、興味がある方は読んでみてください。
主な米国バリュー株ETF
先ほどのCRSP U.S. Large Cap Value Indexは代表的なバリュー株インデックスの一例ですが、これを採用したETFや、他のバリュー株インデックスで組成されたETFが色々とあります。
今回も ETF.com を使って、
- 北米
- 株式
- バリュー戦略
をとっているETF50銘柄のうち、純資産総額の上位10銘柄を調べてみました。
ティッカー | ETF名 | 経費率 | 純資産総額 | |
---|---|---|---|---|
1 | VTV | Vanguard Value ETF | 0.04% | 920.6億ドル |
2 | IWD | iShares Russell 1000 Value ETF | 0.19% | 561.0億ドル |
3 | VBR | Vanguard Small-Cap Value ETF | 0.07% | 256.0億ドル |
4 | IVE | iShares S&P 500 Value ETF | 0.18% | 242.0億ドル |
5 | VOE | Vanguard Mid-Cap Value ETF | 0.07% | 157.3億ドル |
6 | VLUE | iShares MSCI USA Value Factor ETF | 0.15% | 149.9億ドル |
7 | IWN | iShares Russell 2000 Value ETF | 0.24% | 148.2億ドル |
8 | IWS | iShares Russell Mid-Cap Value ETF | 0.23% | 143.2億ドル |
9 | SPYV | SPDR Portfolio S&P 500 Value ETF | 0.04% | 129.9億ドル |
10 | IUSV | iShares Core S&P U.S. Value ETF | 0.04% | 115.0億ドル |
という並びになっていました。
純資産総額の観点ではVTVが飛びぬけて大きく、次いでIWD、その次にVBRとIVEが続く格好になっています。バリュー株ETFとしてはVTVが特に有名ですが、経費率もさすがバンガードといったところで最低水準を実現しています。
米国バリュー株ETFの比較
それではさらにいくつかのETFに着目し、その中身を見ていきましょう。
規模や組成方針の違いを鑑みて選びたいですが、いい具合に上位5銘柄の組成方針が違っているので、そのまま
- VTV:大型バリュー株
- IWD:中型バリュー株
- VBR:小型バリュー株
- IVE:S&P500バリュー株
- VOE:ラッセル1000バリュー株
で見てみることにしましょう。
主要データ
まずは横並びで比較できるところからです。
VTV | VOE | VBR | IVE | IWD | |
---|---|---|---|---|---|
運用会社 | バンガード | バンガード | バンガード | ブラックロック | ブラックロック |
ベンチマーク | CRSP US Large Cap Value Index | CRSP US Mid Cap Value Index | CRSP US Small Cap Value Index | S&P 500 Value Index | Russell 1000 Value Index |
純資産総額 | 920.6億ドル | 157.3億ドル | 256.0億ドル | 242.0億ドル | 561.0億ドル |
経費率 | 0.04% | 0.07% | 0.07% | 0.18% | 0.19% |
構成銘柄数 | 355 | 204 | 1001 | 449 | 853 |
こうしてみると、大型バリュー株のVTVに次いで人気があるのがラッセル1000のバリュー株から構成するIWDというのは面白いですね。ラッセル2000からのIWNが148.2億ドルで7位にいましたが、バリュー株は大きな株から切り取るのが人気なのかもしれません。
仕方ないといえば仕方ないのですが、こうしてみると銘柄数の観点でVOEがずいぶん中途半端な感じに見えますね。
パフォーマンス
続いて、各ETFの値動きを見てみます。
比較のためS&P500のチャートも入れていますが、どのバリュー株ETFを見ても、S&P500のパフォーマンスには及ばないことがわかります。
その中であえてバリュー株のパフォーマンスに言及するのであれば、上位2つと下位3つのようなまとまりとなっており、
VOE > VTV > IVE > IWD > VBR
のような並びになっていることがわかります。
意外にも2011年からの約10年では、先ほど中途半端だとコメントした中型バリュー株のVOEのパフォーマンスが最も優れている結果となりました。
動きとして特徴的なのは、2018年頃まではほぼS&P500に比肩する形でVOEが推移していたことですね。2014-2016年あたりではアウトパフォームするほどで、その後同程度に落ち着いています。
しかし2018年頃からS&P500がバリュー株を大きく引き離すこととなり、コロナショック後でもそれは顕著なことが見て取れます。
コロナショックに対する動きとしてはVBRが最も激しく、「小型株は調整/弱気相場で売られやすい」ということをよく表しているように見えます。
いずれのETFもコロナショック前の価格を上回っていますが、最終的にVBRが2011年からのトータルリターンが最も低い結果となりました。
簡単に各ETFの1-10年リターンをみてみると、
VTV | VOE | VBR | IVE | IWD | S&P500 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1年 | 26.41% | 28.69% | 28.00% | 24.72% | 24.95% | 28.60% |
3年 | 17.62% | 19.10% | 18.51% | 18.44% | 17.43% | 26.03% |
5年 | 12.50% | 11.60% | 10.30% | 11.70% | 10.97% | 18.41% |
10年 | 13.74% | 13.56% | 13.29% | 13.10% | 12.77% | 16.51% |
となっていました。
ここ1年はいずれも素晴らしい結果でしたが、長期になるとS&P500にいずれも劣後していますね。
構成銘柄の比較
それでは、ETFの特徴がよく見える構成銘柄を並べて見てみましょう。
VTV | VOE | VBR | IVE | IWD | |
---|---|---|---|---|---|
1 | BRK.B | CARR | SBNY | BRK.B | BRK.B |
2 | UNH | MSI | FANG | JNJ | JNJ |
3 | JPM | IFF | VICI | PG | JPM |
4 | JNJ | KEYS | MOH | XOM | UNH |
5 | PG | WELL | IEX | CVX | PG |
6 | PFE | DHI | NUAN | UNH | BAC |
7 | BAC | AVB | BRO | DIS | XOM |
8 | AVGO | AJG | BLDR | JPM | PFE |
9 | XOM | ARE | PWR | KO | CVX |
10 | ABT | CTVA | KIM | CMCSA | DIS |
上位計 | 20.28% | 10.47% | 5.52% | 17.19% | 18.21% |
組入銘柄数 | 355 | 204 | 1001 | 449 | 853 |
グロース株のときも同様の傾向でしたが、大型株が対象に入るVTV/IVE/IWDの上位は似たような顔ぶれになっていますね。
VTV/IVE/IWDはいずれもバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)が組み入れトップとなっており、他にもユナイテッドヘルス(UNH)やジョンソンエンドジョンソン(JNJ)、JPモルガン(JPM)、P&G(PG)、エクソンモービル(XOM)などが上位に並びます。このあたりの並びはVYMなんかの高配当ETFと似ている気がしますね。
一方、そうした大型株をそもそもの組み入れ対象に持たないVOEやVBRは全く違う組み入れとなっていますが、こうした全く異なる組み入れによっても先ほどチャートで見たようなある程度の連動性が出てくるのは不思議なところですね。
VTV/IVE/IWDの比較
それでは最後に、上位構成でよく似ているVTV/IVE/IWDの3つが構成銘柄全体としてどのように重複しているのか見てみましょう。
組入銘柄数が最も多いIWDがすっぽり覆うのは概ね予想通りとして、VTVとIVEは意外と差がありますね。組入銘柄数で100ほどの違いがありますが、VTVだけの組み入れが57銘柄、IVEだけの組み入れが149銘柄あるようです。
また、この3者のパフォーマンスはバリュー株ETFとしてほぼ同等ですが、あえて差を評価しようとすると、銘柄選択はもちろん、中心部にある287銘柄に対するウェイトのかけ方に秘密があるのかもしれません。
その他ETFとの比較
大型バリュー株の構成銘柄上位を見る中で「VYMと似ている」という話をしましたので、VYMと市場全体であるVOOの比較も見てみます。
組み入れ上位で似通っていると思ったものの、結構違いましたね。高配当株≒バリュー株な印象がありましたが、どうやらそういうわけでもなさそうです。
こちらはIVEが「S&P 500 Value Index」から構成されているので、ほぼVOOの部分集合になっていることがわかります。
組成方針の通りではありますが、IVEに含まれない63銘柄がアップルやマイクロソフトといったS&P500のグロース株だと思うと非常にもったいないような、そんな気持ちになります。
バリュー株 vs グロース株
市場全体をバリュー株とグロース株に分けるとき、その優位/劣位のトレンドが交代するように見えることが知られています。
この切り替わりタイミングを見てみると、2000年近辺のITバブル崩壊の時期であったり、2008年近辺のリーマンショックであったり、市場全体にインパクトを与えたイベントあたりで転換したことがわかります。
実際のチャート推移で、「2014-2016年あたりではVOEがS&P500をアウトパフォームしていた」ことに触れましたが、この図もよーく見ると2016年のところで一瞬だけバリュー株優位の青色になっていることがわかります。
もちろん、だから今後もイベントを起点に切り替わるのだというわけではありませんが、このように「潮目が変わるタイミングが過去にあった」ことは知っておいてもよいでしょう。
まとめ
今回は米国バリュー株ETFについて調べてみました。
バリュー株ETFは以前調べたグロース株ETFに比べ、パフォーマンスとしては市場ベンチマークであるS&P500に劣後することがわかります。
一方で、その組成方針である「割安である」ということ自体はバリュー優位の時期においては優位に働くこともあると思いますので、そうした市場の資金循環を見極め、アクティブ的に使う分には便利なツールと言えるのかもしれません。
参考記事
その他、関連する記事です。
この記事とほぼ同じ構成でグロース株ETFについても調べています。
ETF構成銘柄の重複を調べるためベン図を書いていますが、そちらの書き方もまとめています。
ETFの特性を知る場合、より正確には構成ウエイト(時価総額)を加味した重複度合いを見るべきですが、単純な銘柄重複を見るだけでも参考になる面はあるでしょう。