書評: 1万円からはじめる投資 ソーシャルレンディング入門

投資といえば株式やFX、不動産などが有名ですが、それとは別の投資スタイルとしてソーシャルレンディングがあります。
従来銀行の専売特許であった金貸し業を個人に開いたものですが、本書にもあるように「競争相手がいない」独特な仕組みとなっています。

本書はそうした仕組みを含め、ゼロからソーシャルレンディングを学べる1冊となっています。

オススメ対象者

この本はタイトルの通りソーシャルレンディングについての入門的な内容が書かれています。
そのため、ソーシャルレンディングをゼロから学びたい人にとって最適なものです。

一方で、ある意味当然ですがソーシャルレンディング以外の投資について詳しく書かれているものではありません。
このあたりは不動産本然り、「他の投資と比較してどうなのか」という視点で読むと物足りないものになってしまうので、前提として割り切りが必要なところです。

というわけで、オススメ対象者は

  • 様々な投資がある中でも、特にソーシャルレンディングに興味がある人
  • 実際にソーシャルレンディングをはじめてみようと思っている人

となります。

本書の中では、著者が業者や案件を選ぶ際に考えていることが惜しみなく書かれています。
そのため、「株か、不動産か、ソーシャルレンディングか…」というレベルで読んでしまうと少々内容が細かすぎると感じるでしょうから、その点は注意が必要です。

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概要

この本の著者、SALLOWさんは2012年からソーシャルレンディングの投資をスタートし、本書の出版時点(2018年12月)で8000万円を超えるソーシャルレンディング投資を実際に行っています。
(正確にはより広義にクラウドファンディングと言及したほうがよいですが、この記事ではソーシャルレンディングで統一します)

ソーシャルレンディングを実践、推奨する投資家やブロガーは他にもいますが、ソーシャルレンディングオンリーであったり、この規模で投資をしている個人投資家は非常に稀有な存在だと思います。

ここで「ソーシャルレンディングオンリー」というのがSALLOWさんの大きな特徴ですが、このことは本人のブログでも言及されていたためそれを読んでおくと基本的なスタンスがよくわかります。

本人が「値動きアレルギー」を自認している通り、とにかくリターンを追求するわけではなく、リスクとのバランス感を大事にしているのが特徴です。

それでは、本の中で印象的であった部分に言及しつつ、内容に触れていきたいと思います。

金利を払う側ではなく、もらう側になろう

この本の冒頭では、「ソーシャルレンディングとは何か」というような漠然とした話から柔らかく始まります。

ソーシャルレンディングは、フィンテックから生まれた新しい投資商品ではあるものの、本質的には新しい投資ではありません。その本質は、古くから世の中に金融という形で干渉してきた「金貸し」です。
そして歴史をひもとけば、古今東西お金持ちになるための最も有力な手段の一つが「金貸し」でもあります。

ですから私は、個人投資家が間接的に金貸しとなれるソーシャルレンディングは、現代においても優れたインカムゲイン投資だと考えるわけです。

古今東西、お金持ちになるのは「金貸し」 より

ここで述べているように、ソーシャルレンディングとは要するに金貸しです。
古くはまとまったお金を持つ大金持ち、現代ではお金を抱えるのが仕事である銀行の特権と言える稼ぎ方でした。

そうした特権とも言える稼ぎ方が、フィンテックを背景として一般人の手の届く形になったのがソーシャルレンディングです。
もちろん、個人で全額を融資できない以上、ソーシャルレンディング事業者が仲介することになり、大金持ちのそれほどダイレクトに稼げるものではありませんが、とにかくあの特権ビジネスであった金貸しになれるというのがソーシャルレンディング最大の特徴です。

そうした特権ビジネスであることを念頭に、本書の冒頭で

金貸しは儲かる、収益のドル箱だ。
ならば自分も金利を払う側ではなく、もらう側になるべきです。

古今東西、お金持ちになるのは「金貸し」 より

と述べており、これはよくある「労働者から投資家になろう」という話同様、「払う側からもらう側になろう」という重要な基本スタンスになります。

「毎日の値動きがない」という魅力

この本を書いている通り、著者はソーシャルレンディングを高く評価しているわけですが、その理由の最たるものが「毎日の値動きがない」ことだそうです。

著者も以前は株や投資信託、FXなどの典型的な投資もやっており、その中でリーマンショックやライブドアショックなど、失敗経験を得ていたことがこの魅力観につながっているようです。

ソーシャルレンディングに軸足を移す転換点となったのが2012年頃のようですが、その頃をこのように振り返っています。

唯一の大勝ちは、2012年の衆議院解散の時でした。なぜか迷いなく「ここしかない」と確信できた私は、定期預金や国債を一気に解約し、手元資金のほとんどを株や投資信託、外貨につぎ込みました。

結果として投資は成功したわけですが、これらの商品を売り払って黒字を確定させた後の私は、大きな疲れを感じていました。
リアルタイムで価値が変わっていく様を見て、上がれば喜び、下がれば気を揉む……そんな値動きとともにコロコロ変わる自分の感情の揺れに疲れてしまったのです。気にしなければいいと頭では分かっているのですが、値動きがリアルタイムで起こるためについつい目で追うことをやめられませんでした。

毎月の値動きがなく、月々堅実な収入が手に入る より

本記事の冒頭、オススメ対象者のところで「他の投資と比較してどうかと読むと物足りない」という言い方をしましたが、投資スタイルの根底にあるのがこのエピソードであり、著者にとってリターンの最大化は二の次であるということです。

しかしその一方で、本書を読まれる方の中にも「いや私は何よりリターンが一番だ」と思う方もいると思います。
そうした方は著者と根幹をなすものが違うため、本書の中で同意しかねる考えが散見されると思いますが、こうしたことはもはや合理性の外側にある信条と言えるものです。
誤解を恐れずに言えばどの宗教を信じるかの違いですので、そうであれば「そういう前提に立てば、筋の通った話だな」と思ってパラパラ読むのがお互いにとってよいでしょう。

「銀行がお金を貸さない事業」が危険とは限らない

個人的に目からウロコだったのがこの部分です。

私自身、ソーシャルレンディングが金貸しであることは承知していましたが、その存在の合理性にあまり納得できていませんでした。いくら制度が開かれたと言っても、やはり元来銀行などの独壇場であったわけなので、こうして様々な案件に個人ができることの違和感を感じていたわけです。

そうした違和感を自分なりに説明する合理性が、本書でも触れられている「銀行がお金を貸さない事業に、個人がリスクをとって金を貸している」というややネガティブな考えでした。

もちろん、事実としてリスク要因で断られた案件がソーシャルレンディングに回っているものもあると思いますが、本書でも触れられている「借り手と貸し手のすれ違い」が “従来の金貸し業界” において発生していたものと理解しました。

商工中金については少し前にニュースになりましたが、貸付実績を増やすために貸付先事業者の財務情報等を偽るということが常態化していたらしく、ほとんど全ての事業所で不正が発覚、全職員の実に2割が処分対象になるというひどい有様になっており、しばらくは内部体質とガバナンスの改善で手一杯でしょう。
そういった背景もあり、「銀行は貸さないが借入ニーズは高い」領域については、借り手はいても貸し手がいないという空白状態となっていました。

「銀行がお金を貸さない事業」=「危険」ではない! より

これは貸す側の背景ですが、一方で借りる側の理由で銀行からの借入を望まない、というケースもあります。実は、銀行から融資を受けたほうが条件的に不利になることも多いのです。
銀行は基本的に、「信頼できる相手に」「それなりの金額を」「長期にわたって」貸し付けることを好みます。

「銀行がお金を貸さない事業」=「危険」ではない! より

このようなことから、ソーシャルレンディング事業者が仲介に入っていったとしても、ソーシャルレンディングによる融資が条件的に合理的である側面が見えてきます。

こうした動きはリーマンショックで従来の金融システムが大きな打撃を受け、それでもなんとか業績を上げなければならなかった金貸したちの苦肉の策で不正に手を染め、そしてそれが隠しきれないほど悪い病気として露見したことを背景にしています。
こうなると不正によって「適切な融資」を演出できなくなりますから、実績のない小規模事業者に向けての融資が空白地帯になるのも納得できます。

そうした状況の中で、そうした「業界の歪み」に目をつけ、新たなビジネスを創出するというのもまた、金融市場という生き物において必然かつ合理的な動きであったと感じました。

リーマンショックが2008年頃、そしてこうした動きがその後10年かけてじわじわ動いていたことを思えば、2020年のコロナショックという社会的な大トラブルの先に、どのような次の歪みが待ち受けているのか、とても興味があります。

リスクを常に意識する

毎日の値動きがないことを魅力に挙げ、他の投資に比べて安全性に優れる(ここは少しポジショントークもあると思いますが…)ソーシャルレンディングを語る中でも、常にリスクを意識した投資行動を心がけていることが印象的に映りました。

投資においてリスクを低減しようとする場合、ポートフォリオ理論が指摘するような分散投資を考えるのが典型的です。
そしてその「分散」というのは、「あの企業とこの企業に分散」という狭い話ではなく、「株式と債券に分散」というように、資産クラスレベルでの分散が特に重要であると言われます。

そうした考えからすれば、体質的にリスクが抑えられているソーシャルレンディングを選ぶ限り、「(株などに比べれば)そこまでリスクを気にすることもない」と思ってしまう方もいるでしょう。

本書でも前半ではソーシャルレンディングの事業特性を語り、そこからくる安全性に触れていますが、だからといって「ソーシャルレンディングだから安全」と安易に結論付けることなく、個別案件についても常にリスクを意識し、担保などもチェックしつつ細かに運用する姿勢が印象的でした。

細かな内容よりは大局観を読み解く一冊

この本は2018年12月に出版されていますが、出版後に本書で取り上げた事業者にトラブルが発生するなど、今となっては認識が古くなってしまっている部分がいくつかあります。

注意点として、本の発行は2018年末ですが、maneoやmaneoファミリーのトラブルについての記述がなく、トラブル前に書かれた内容になっています。
maneo(行政処分)やトラストレンディング(金融商品取引業の取り消し処分)などトラブルがあった事業者が本におすすめと書かれていますが、その点の情報の古さについてはブログで補完されています。
そのため、読む時は必ずブログとセットで読みましょう。

ソーシャルレンディングおすすめ本3選 より

ただこの点は著者本人も十分認識のことなので、ブログでフォロー記事が公開されています。

注意点として、書籍執筆時と状況が変わっていることがあります。
例えばmaneoは(少なくとも執筆時には)問題のない事業者でしたが、その後プラットフォーム利用事業者の一つが問題を起こしたことから連鎖的に遅延案件を多く抱えることになりました。
この他にも、書籍の中で紹介している事業者のうちいくつかは執筆時と状況が変わっていますので、CHAPTER2については参考程度にしていただければと思います。

注意点と内容 より

本書全体を見渡したとき、

  • CHAPTER1 誰でも、手軽にお金を増やせる!ソーシャルレンディングの魅力
  • CHAPTER2 私が5000万円以上投資する「7つの優良事業者」
  • CHAPTER3 投資をはじめる前に!5分でできる口座開設
  • CHAPTER4 たった2つのポイントをおさえれば、儲かる案件が選べる
  • CHAPTER5 案件、事業者、投資スケジュールを公開!私のソーシャルレンディング投資実情

という構成になっていますが、CHAPTER2は生モノとして参考程度に読んでくださいということです。

とはいえ、CHAPTER 2では「事業者をどういった視点で評価するか」というフレームを学ぶことはできますので、自らの手で最新版にアップデートする前提で、事業者の評判をざっとインプットする助けになるでしょう。

やはりこの本の魅力としてはCHAPTER1においてソーシャルレンディングの基本的な理解を得る部分と、著者の経験に基づいた案件の選び方を知ることができるCHAPTER4/5にあると思います。

個々の細かな内容は時代の流れなどで風化してしまいますが、「金貸しは儲かる」とか「値動きのなさが魅力」といった根幹をなす理解はそう簡単に変わるものではありません。
ですので、そうした大局観をじっくり骨太に読み取りつつ、細かなテクニックを参考程度に読むのがよい本だと思いました。

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まとめ

本書は、タイトルにある通りソーシャルレンディングの入門書です。
2021年の現在になってもソーシャルレンディングやクラウドファンディングに特化して書かれた書籍は他の投資分野に比べ、圧倒的に少ないと言わざるを得ません。

本書冒頭でも「ソーシャルレンディングは日本においてマイナー」と触れられていますが、そんなマイナーな投資分野にあって、1億円近い投資実績を持った個人投資家が書いている本書はとても貴重な存在です。

最後に、改めて頭に入れておきたいのは、ソーシャルレンディングだけに集中投資をするのはあくまで著者固有の考え、体験に基づくものであり、読み手にとってそれが当てはまるかどうかは何も保証しないという点です。
本書で理解した内容を踏まえ、自分にとってどの投資手段を選択するかどうかは自ら責任をもって決める必要があるため、他の投資も学びつつ「自分なりのソーシャルレンディング観」を評価していく必要があるでしょう。

この手の特化本にありがちな、「他の手段を下げ、自分の手段を上げる」というスタイルが少ない、客観的な事実と主観的な理解を区別して書かれた良心的な本であると思いました。

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参考情報

著者はブログでも随時ソーシャルレンディングの話題を発信していますが、今回セットでいくつかの記事を読んでみたのでそちらも参考として挙げておきます。

考え方

これらはソーシャルレンディングに関する内容というよりは、投資観やその先の目的意識をまとめたものですね。
本書でも最後の方に少し出てきますが、こうした著者の基本的な考え方は私もとても共感できるところです。

トラブル・失敗

また、私自身はソーシャルレンディングに手を出していませんが、それでもSBI SLの撤退は耳に入ってくるものでした。本書でもオススメ事業者として挙げられているだけに、残念ですね。

加えて、本書でも僅かに言及されていましたが著者のソーシャルレンディング歴において初の失敗案件に関する内容です。こちらは旧ブログですが、続報含めて当時かなりの注目度であったことがわかります。