皆さんふるさと納税はされていますか?
高額返礼品の過熱もあり、一時期よりは落ち着いたものとなりましたが、依然としてお得さがあり人気な制度となっています。
が、「高所得者優遇の制度である」などとして、制度そのものをよく思わない方もいるようです。
今回はそんなふるさと納税の制度について、創設の経緯から意義について調べてみたいと思います。
なお、そういった主旨から、「どこにふるさと納税したらお得か」といった実利的な話はありませんのでご了承ください。
Contents
ふるさと納税とは
今更取り立てて言うものではないのかもしれませんが、ふるさと納税は大雑把に言って
- 納税者が任意の自治体へふるさと納税を行う
- ふるさと納税を受けた自治体は納税者に対して返礼を行う
- ふるさと納税の情報が居住自治体に連携される
- ふるさと納税を行った額に応じて、居住自治体における住民税が減額される
というものです。
それぞれの関係性を図にまとめるとこうなります。一部不正確な表現がありますが、ワンストップ特例を使う方であればこの理解で概ね問題ないでしょう。
ふるさと納税は言ってしまえば、「居住自治体に払うはずの住民税の一部を、任意の自治体に納める」制度です。ふるさと納税という形で住民税を受け取った自治体の多くは、返礼品という形で納税者にお礼を行うというわけです。
より単純には、単にネットショッピングをしているようなものとも言えてしまいます。
しかし、ふるさと納税という仕組みでは、支払ったお金の大部分が住民税から引かれるので、お得であるというのが注目を浴びている理由です。
具体的なお得さは以下のページなどをご覧ください。
ふるさと納税の目的
「ふるさと納税がお得である」というわけですが、お得さの裏にはカラクリがあるはずです。
そして、それはもしかしたら私たちのお得さを負担している存在がいるかもしれないということです。
というわけで、ふるさと納税の目的を調べてみましょう。
ふるさと納税は総務省主管の制度ですので、 ふるさと納税ポータルサイト が参考になります。
このポータルサイトからふるさと納税の大本を探ってみます。
ふるさと納税の意義
そもそもふるさと納税がどういう意義の下に導入されたものなのかは、以下のページをみるとわかります。
ふるさと納税には三つの大きな意義があります。
ふるさと納税の理念(ふるさと納税ポータルサイト)
・第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。
それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
・第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。
それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
・第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。
それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。
ということのようです。
一人ひとりが「納税をする」という意識を持って、「自治体を選び、使途を選ぶ」ことと、自治体側にも「選ばれる自治体となる」ことを目指すきっかけを作る制度というわけです。
お金の流れを少し変えるだけで、それに連動して様々なことが動きますが、このふるさと納税に関してはこのような狙いがあるということですね。
ふるさと納税制度化の背景
さて、それではどうしてそんなふるさと納税を制度化したかったのかというと、それはその前文にかかれています。
ふるさと納税で『地方創生』
ふるさと納税の理念(ふるさと納税ポータルサイト)
ふるさと納税で日本を元気に!
地方で生まれ育ち都会に出てきた方には、
誰でもふるさとへ恩返しをしたい想いがあるのではないでしょうか。
育ててくれた、支えてくれた、一人前にしてくれた、ふるさとへ。
都会で暮らすようになり、仕事に就き、納税し始めると、
住んでいる自治体に納税することになります。
税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みができないか。
そのような想いのもと、「ふるさと納税」は導入されました。
ここではあまり強く書かれていませんが、日本が少子高齢化・労働人口減少に向かっていく中で、都市と地方の人口格差は深刻な問題となっていきます。
特に、私を含め「地方で生まれた人が都市部で働く」ことは、言い方は悪いですが地方から見ると「労働力の育て損」となるわけです。
地方問わず、国の税制というものは育児というものを優遇するようになっています。
小中学校の無償教育はもちろん、「育てる人がいる」という点で扶養控除したり、様々な予防接種を公費の援助の中で行っていたりします。
この間、その優遇を受ける身である子どもから税収が生まれることはなく、就職までのおよそ20年間にわたり投資を続けているような状態となります。
ところが、いざ就職のタイミングになると都市部へと出ていってしまい、肝心の税収は若者を育んだ地方ではなく、それを刈り取っていく都市にもたらされるというのが現状です。
もちろん、住民税というものは、その土地で生きる人たちへの住民サービスのために使われる側面が大きくあります。しかし、そうしてその土地に行き、働いて収入を得て、税金を納められているのは生まれ育った土地あってのことです。
そうした、自分を育んでくれた土地に対して、あるいはそのような状況にある多くの “ふるさと” に対してもお金を行き渡らせようという制度趣旨は、何ら否定すべきものではないと私は感じます。
ふるさと納税への批判
さて、そんな目的を持つふるさと納税に対しても、いくつか批判があります。
それらの批判を通じ、この制度の難しさに触れてみましょう。
高所得者の恩恵が特に大きい制度である
ふるさと納税への批判として最もよく聞かれるものが「ふるさと納税は高所得者で特に恩恵が大きい制度である(だから不公平である)」というものです。
ふるさと納税は、その特性上、特に都市における住民税税収が減少することが想定されます。
しかし、住民税本来の機能である「居住者へ住民サービスを提供する」ことが失われてはなりません。
ですので、住民税の全額をふるさと納税に充てられるようにはなっておらず、元々の住民税額から逆算するような形で、「住民税減額の対象となるふるさと納税額」が決まっています。
以下は、独身や共働きなど扶養がない人と、妻と子2人(高校生/大学生)の扶養がある人の上限額を並べたグラフです。
色の濃いほうがふるさと納税の上限額を示しています。扶養がある場合、ない場合いずれも年収が上がるに従って上限額が上がっていくことがわかります。納める住民税が大きくなるほど、ふるさと納税できる枠が大きくなるということです。
ふるさと納税の上限額が上がるとともに、どれくらい住民税が上がるかというのが色の薄いほうのグラフになっています。
例えば、年収400万円の扶養なしで年間20万円ほどの住民税を支払っているところ、年収1000万円の人はその3倍にあたる60万円ほどを支払っています。
ここで、年収/住民税/ふるさと納税上限の関係を考えてみると、
年収 | 400万円 | 1000万円 | 2.5倍 |
住民税額 | 20万円 | 60万円 | 3倍 |
ふるさと納税上限額 | 4.2万円 | 17.6万円 | 4倍 |
ふるさと納税メリット(3割目安) | 1.3万円 | 5.3万円 | 4倍 |
のように、年収や住民税額以上にふるさと納税の上限額が大きくなっています。
これを見ると、「高所得者に恩恵が大きい」という主張もわかります。
「ふるさと納税がお得である」ことの総量は、上限額に依存して決まるので、高所得者がより多くのメリットを享受しつつ、かつその割合も大きいということです。
自己負担額との差し引きでいけば、概ね3割程度のメリットを享受できると思いますが、年収1000万円の人はおよそ3.5万円ほどメリットを享受でき、年収400万円の人よりさらに2.7万円お得ということになります。羨ましいですね。
…というようにここまでは思うのですが、本当にそうでしょうか。
改めて考えてみると、そもそも年収1000万円の人は60万円の住民税を納めているわけです。
一方で、年収400万円の人は20万円しか納めていないわけで、これは「年収1000万円の人が住民税払いで40万円損している」とは言わないのでしょうか。
同じ土地に住み、同じようにゴミを出して、同じように道を歩いたりするわけですが、そのことで20万円払う人と40万円払う人がいることそれ自体は、不公平なことだと思います。
もちろん、国だったり自治体だったりという公共団体の中にあっては、累進課税の仕組みとともに「その不公平こそが公平であり、高所得者の義務である」という価値観の中に私たちは生きています。
ですので、そもそもの住民税額の差でもって「こっちがそもそも不公平なのだから、ここだけを不公平とするのはおかしい」と主張するわけではありませんが、ふるさと納税という税制だけを切り取って「高所得者優遇である」と批判するのは、それこそ不公平なのではないかと感じます。
人気のある/力のある自治体にだけお金が集まる
ふるさと納税は、その制度理念にあるように「納税者が自ら納税先を選ぶ」ということを大事にしている制度です。
そのため、納税者が納税先を選ぶ材料を提供する観点で、各自治体が何を見せるかということが重要になります。
これはある側面では、「選ばれる自治体となるために、いかに宣伝費を捻出できるか」ということでもあります。制度が始まった当初は、特段返礼品にかける費用の目安が示されていなかったために、Amazonギフト券による返礼を含めて、最大で6割程度の返礼が行われるに発展しました。
6割の返礼が行われるにしても、多少の税収は見込めるため、それでもいいのかもしれませんが、これは要するに強者による薄利多売戦略のようなものです。
年間500億円近いふるさと納税を集めた泉佐野市のふるさと納税が話題になったことがありましたが、泉佐野市はほとんどの自治体が利用する、ふるさとチョイスやさとふるなどのふるさと納税ポータルサイトを利用せず、独自ポータルサイトを構築するほど基礎的な体力を持つ自治体でした。
こうした制度上の穴を突いて、ふるさと納税の競争が過熱した果てに、
- 返礼品の価格をふるさと納税額の3割程度にすること
- 返礼品は地産品など、自治体にゆかりのあるものにすること
というガイドラインを総務省が後出しじゃんけん的に示し、先述の泉佐野市などと争うこととなりました。
この一連の流れを見るに、やはりふるさと納税という制度には制度上の欠陥があったことは間違いないと思います。
しかし、現状ではこうしたトラブルの温床となった問題点は少しずつ改善されてきているため、改めて本来の主旨に立ち返って活用されていけばよいと思っています。
地方活性化を住民税操作で行うのはおかしい
一般的にこの主張に出会うことは少ないですが、最も根本的な批判です。
ふるさと納税の意義でも触れたように、この制度で狙うの地方と都市の税収格差是正であったり、若者を育んだ地方に対する一定の還元、そして一連の流れを通じて地方を活性化することにあります。
要するに「税金の再分配を通じて地方を活性化しよう」という側面があるのですが、本来論としては、税金の再分配は地方交付税によってすでに実施されていることです。
そのことによれば、「ふるさと納税がなくても、地方と都市の一人あたり税収に大差はない」とする試算があるようです。
現状でそのような税収コントロールがなされているにも関わらず、なぜさらに、そしてなぜそれを住民税の移動によって図るのかという点について批判されることがあります。
そうした批判を踏まえ、ふるさと納税によって減収となった自治体に対しては、減収額の75%が地方交付税で補填されることとなっていますが、確かに根本のアプローチに対する批判となっています。
また、減収額の75%が補填されるといっても、元々税収が豊かで地方交付税の交付対象外とされている自治体は一方的に税収が減るだけですので、総論としてカバーされていても、依然として問題点が残っています。
こうした批判は最もなものと思いますが、「一人あたり税収に大差ない」としても、すでに流出してしまった若者が「一人」に入らないことから、簡単な計算で結論は出せない問題ですね。
ふるさと納税の活用方法
崇高な理念と、現実の問題を併せ持っているふるさと納税ですが、それでは今この制度とはどのように向き合ったらいいのでしょうか。
理念や批判を踏まえ、私は以下の4通りがあると考えています。
- 使わない
- 好きな自治体にふるさと納税を行う
- 縁のある自治体にふるさと納税を行う
- 災害など助けになりたい自治体に寄付を行う
使わない
最も簡単な向き合い方です。これは要するに、
- 居住自治体に住民税を納める
ことを選択したということです。
ふるさと納税の理念や目的、そして利用メリットを理解してもなお、これを利用するかどうかは納税者本人の判断に委ねられています。
この制度を使わない場合、本来納付すべき住民税の全額が居住自治体に入るようになります。
当然、現時点で居住している自治体ですので、自分が生きていくことに対してお金はかかっていますし、意識的に「居住自治体への納税を選ぶ」ことを選択している観点で制度趣旨にも適うものです。
特に、育児を行っている人においては、自治体からの公共サービスを感じるシーンも多いと思いますので、より居住自治体に納税するメリットや意義を感じやすいことでしょう。
好きな自治体にふるさと納税を行う
おそらく最も一般的な向き合い方がこれにあたると思います。こちらは、
- 返礼品と引き換えに他の自治体へ住民税を納める
という選択です。
ポータルサイトなどから様々な返礼品を見て、良いと思った返礼品をもらうというわけです。
返礼品と引き換えに、ふるさと納税を行っているわけなので、ネットショッピングと大差ないような行動ですね。
他にも、ちょっと旅行で立ち寄った自治体にふるさと納税を行うなんてこともよい使い方だと思います。その土地の観光が好きなのであれば、ふるさと納税の使途を観光に指定するのもいいかもしれません。
以前は返礼品競争で焼畑農業のような様相を呈していましたが、ガイドライン変更によって持続可能な制度になってきたと思いますので、このように使うのも制度趣旨に反するものではないと思います。
縁のある自治体にふるさと納税を行う
私が最も重要視しているのがこちらの使い方です。これは、
- 自分がお世話になった自治体に住民税を納める
ということです。
先にも少し触れたように、私は現在東京都に住んでいますが、元々の出身は三重県です。
大学を出て就職するタイミングで東京にきましたので、結局三重県にほとんど納税をしないまま今に至っています。
「地元を離れて都市で働く」こと自体は、さして珍しいことではないと思っていたのですが、このふるさと納税の制度を調べていく中で、地方と都市の人口格差や人口流出の問題を知り、この使い方を大事にしたいと思うようになりました。
さらに、ふるさと納税ではお金の使途を指定できますが、使途として私は特に「防災の充実」を指定しています。
というのも、三重県をはじめとした東海・南海地域は、100年から200年の周期で東南海地震が発生すると言われており、直近では1944年の南海地震がそれにあたると言われています。
東南海地震の話題は、私が三重県に住んでいた高校生の時点でしばしば聞いていましたし、何より三重県には親・兄弟をはじめとした自分の知り合いが多く住んでいることから特に気にしています。
おそらく、東南海地震が発生しても、首都圏にいる限りは私が死ぬことはほとんどないでしょう。
しかし、三重県に残る親・兄弟はそうもいかず、最悪の場合自分だけが生き残るなんてことも考えられます。
だからこそ、他に教育や観光の充実といった使途がある中においても、私は特に防災の充実を毎回指定しています。
長期にわたり、巨額の費用がかかる防災行政において、私がこのようにふるさと納税を行うこと自体は、大勢に何の影響も与えないものだと思います。
しかし、ふるさと納税の理念や、自分に与えられた選択肢を前に、ぜひこのような選択をしていきたいと考えています。
災害など助けになりたい自治体に寄付を行う
最後に、あまり認知されていない使い方ではありますが、
- 災害支援として被災地に住民税を納める
というものがあります。
例えばふるさチョイスでは 災害支援 のページでまとめていますが、日本全国で発生する災害に対する寄付を、ふるさと納税の形で行うことができます。
災害支援を主目的とするため、ほとんどのケースでは、返礼品は存在しません。被災地の自治体から見れば、これは本当に寄付だということです。
しかし、枠組みとしてはふるさと納税のものを使うため、実質的な負担額は住民税をとの相殺によって小さいものとなります。(上限額を超えた分は純粋な寄付となります)
先ほどは自分がお世話になった自治体の防災という未来の災害のためという観点でしたが、こちらは被災という現実に発生した災害に対するものです。
日本は災害大国として、日々日本のどこかで大小の自然災害が発生していますが、いつか自分にも降りかかり得るものとして、自分の身が安全に保たれている間はこのような形で支援していきたいと思います。
まとめ
今回はふるさと納税の意義について調べてみました。
元々、こういった記事を書こうと思ったのが、「高所得者優遇」とか「居住自治体の首を締める」といったネガティブなイメージによって、一切利用しないとしている人を見たからでした。
もちろん、ふるさと納税自体は制度主旨からして本人の自由ですので、それ自体はよいのですが、利用しないことの判断基準が目先のお金だけになっているような気がしたため、人口流出とか地方税制が抱える問題を背景として生まれた制度であることを改めてきちんと知りたいと思い、調べました。
改めて調べてみて、ふるさと納税による高所得者優遇が不公平であるかどうかは、高所得者に対する累進課税が不公平でないことと同様に、正しい手続きを経て法律に裏付けられた制度であることから、私は不公平ではないと感じました。また、居住自治体の首を締めるかどうかについても、ある程度の水準をもって上限が定められていますし、地方が育んだ労働力によって都市が支えられていることから、必要な動きだと感じます。
仮に不公平であるとしても、ふるさと納税の使い方は災害支援や防災の観点で必ずしも自身のメリットばかりを追い求めるものではないこともわかったため、目先の拒否感でもって一切利用しないというのももったいないと思っています。
様々な批判や紆余曲折のある制度ではありますが、今後も当面は続いていくと思いますし、自分なりに上手くこの制度と付き合っていきたいと思いました。
参考記事
主にふるさと納税制度そのものの意義を調べるために参考になった記事です。
特に、制度開始前にまとめられたふるさと納税研究会の報告書はその意義そのものを知るのにとても参考になりました。
ポータルサイトでは何気なく記載されている背景や意義の文章ですが、それを紡ぐために様々な角度から、じっくり検討されてきた文章だということがわかります。