企業型確定拠出年金の商品改善を考える

企業型確定拠出年金のメリットを述べた以前の記事で、「商品がよくない」というデメリットを紹介しました。

商品変更のハードルが高いことも合わせて紹介してますが、現在選び得る商品のうちでよい商品はあるのでしょうか。選びうる商品の中から、一定基準で探してみたいと思います。

なお、非常にニッチな内容なので企業の確定拠出年金担当者くらいにしかほとんど読む価値がないであろうことを前もってお断りします。

「よい商品」とは

世の中に日々生まれる商品において、「よい商品とは何か」ということはある意味永遠のテーマではありますが、制度主管官庁である厚生労働省の通達などから、よい商品を選ぶポイントを抜き出してみましょう。

確定拠出年金法より

まずは、確定拠出年金制度そのものを規定する法律から、商品選択について定めた第二十三条の条文をみてみましょう。

(運用の方法の選定及び提示)
第二十三条 企業型年金加入者等に係る運用関連業務を行う確定拠出年金運営管理機関(運用関連業務を行う事業主を含む。以下「企業型運用関連運営管理機関等」という。)は、政令で定めるところにより、次に掲げる運用の方法のうち政令で定めるもの(次条第一項において「対象運用方法」という。)を、企業型年金加入者等による適切な運用の方法の選択に資するための上限として政令で定める数以下で、かつ、三以上(簡易企業型年金を実施する事業主から委託を受けて運用関連業務を行う確定拠出年金運営管理機関(運用関連業務を行う簡易企業型年金を実施する事業主を含む。)にあっては、二以上)で選定し、企業型年金規約で定めるところにより、企業型年金加入者等に提示しなければならない。

 一 銀行その他の金融機関を相手方とする預金又は貯金の預入
 二 信託会社又は信託業務を営む金融機関への信託
 三 有価証券の売買
 四 生命保険会社又は農業協同組合(農業協同組合法第十条第一項第十号の事業のうち生命共済の事業を行うものに限る。)その他政令で定める生命共済の事業を行う者への生命保険の保険料又は生命共済の共済掛金の払込み
 五 損害保険会社への損害保険の保険料の払込み
 六 前各号に掲げるもののほか、投資者の保護が図られていることその他の政令で定める要件に適合する契約の締結

2 前項の規定による運用の方法の選定は、その運用から生ずると見込まれる収益の率、収益の変動の可能性その他の収益の性質が類似していないことその他政令で定める基準に従って行われなければならない。

3 企業型運用関連運営管理機関等は、前二項の規定により運用の方法の選定を行うに際しては、資産の運用に関する専門的な知見に基づいて、これを行わなければならない。

確定拠出年金法「運用の方法の選定及び提示」(e-Gov) より

さすが法律、中々読むのに苦しいですね。
要するに、運用商品の選択でポイントとなるのは次の3点です。

  • 35本以下であること(現在の基準)
  • 一~六で定める商品種別(預金商品/保険商品/投資信託商品/…)のうち、3種類以上が含まれること
  • 選定が専門的な知見に基づいて行われること

要するに、現時点では商品種別3種類以上、合計35本以下であること以外は法的要件としていないということですね。

法令解釈通知より

確定拠出年金制度を運用する上で守らなければならないことは、当然法律の条文になりますが、独特の表現であることもあり、文意が読み取りづらい部分があります。
そうしたこともあり、他の多くの法律と同じように、確定拠出年金法には法令解釈通知というものが存在します。

そこでもやはり商品選定に関係する内容が触れられていますので抜粋してみます。

(1)運用の方法の選定及び提示については、法第 23 条第1項において上限が定められているが、今後の運用の方法の追加等も念頭に、上限まで選定する(追加する)のではなく、加入者等が真に必要なものに限って運用の方法が選定されるよう、確定拠出年金運営管理機関(運営管理業務を営む事業主を含む。以下この第4から第6までの事項において「確定拠出年金運営管理機関等」という。)と労使が十分に協議・検討を行って運用の方法を選定し、また定期的に見直していくこと。

確定拠出年金制度について「第4 運用の方法の選定及び提示に関する事項」(厚生労働省) より

(4)運用の方法の選定及び提示に当たっては、加入者等の選択の幅が狭められることのないよう、リスク・リターン特性の異なる運用の方法から、令第 15 条第1項の表の中欄のうち3つ以上(簡易企業型年金の場合3つ以上)の区分に該当する運用の方法を適切に選定し、加入者等に提示すること。

確定拠出年金制度について「第4 運用の方法の選定及び提示に関する事項」(厚生労働省) より

ここから少し具体性が増してきました。

  • 加入者にとって必要な方法が選定されること
  • リスク・リターン特性の異なる運用方法から、加入者の選択の幅が狭められることがないこと

1点目で重要なことは「加入者にとって必要だ」とすることが一定の選定理由になるということです。その観点の1つとして、選択の幅を確保することも、同様に必要なこととされていますね。

事業主による運営管理機関の評価より

2018年7月より、新たな法的義務として「事業主による運営管理機関の評価」が加わりました。

確定拠出年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律第66号)の一部が2018年5月1日から施行され、企業型年金を実施する事業主は、運営管理業務を運営管理機関に委託する場合は、少なくとも5年ごとに、運営管理機関が実施している運営管理業務について評価を行い、委託内容について検討を加え、必要に応じて、委託内容の変更や運営管理機関の変更などを行うよう努める必要があります。

兼務規制の緩和、運営管理機関の評価関係「事業主による運営管理機関の評価について」(厚生労働省) より

ここで述べている評価というのは商品ラインナップだけでなく、総合的に加入者のためになっている運営管理機関かということです。

商品ラインナップに関連する内容としては、以下の2点が関係します。

1 提示された商品群の全て又は多くが1金融グループに属する商品提供機関又は運用会社のものであった場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。

2 下記(ア)~(ウ)のとおり、他の同種の商品よりも劣っている場合に、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。
(ア) 同種(例えば同一投資対象・同一投資手法)の他の商品と比較し、明らかに運用成績が劣る投資信託である。
(イ) 他の金融機関が提供する元本確保型商品と比べ提示された利回りや安全性が明らかに低い元本確保型商品である。
(ウ) 同種(例えば同一投資対象・同一投資手法)の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない商品である。

兼務規制の緩和、運営管理機関の評価関係「事業主による運営管理機関の評価について」(厚生労働省) より

この観点は非常に重要です。

1で示されているのは「UFJに委託したらUFJなんとかという商品ばかりになった」ということに物申せるということです。確かに、各金融機関において優秀な商品もあるでしょうから、いい商品を選んでいったら結果的にそうなったというケースは十分にあり得ますが、そうでない場合は「悪い運営管理機関である」と評されて然るべきということを言っています。

次に、2では「他の同種の商品よりも劣っている」とする基準を、3つの観点で述べています。
1つ目が、投資信託のリターンに関するもので、例えば「日経225連動のインデックス投信」において、明らかに劣るものがあれば、それは悪い商品としてよいということです。
2つ目は元本確保商品の利回りや安全性に関わることですので、格付け会社の格付けなどを頼りに評価することができるでしょう。
3つ目は手数料の話ですので、信託報酬信託財産留保額の観点で商品を評価できるということです。

企業型確定拠出年金制度運営ハンドブックより

最後に、企業年金連合会が公表しているハンドブックから引用してみます。実質的にはこれが最も踏み込んだ表現になっていますね。

ところで、運用商品の評価に当たっては、「良い商品」「悪い商品」を定義することは極めて難しい問題であること、また、運用商品の追加が加入者等の混乱を招くおそれもあること等を十分に考慮し、慎重に判断することが望ましい。特に単なる騰落率だけに着目して 投資対象の異なる投資信託を横断的に比較したり、ベンチマークと比較せずに元本割れの有無だけで評価したりすることのないように注意が必要である。

企業型確定拠出年金制度運営ハンドブック「制度導入後の商品モニタリングについて」(企業年金連合会) より

当然、商品の良し悪しを定義することは極めて難しいとしつつも、運用商品の状況を検証(モニタリング)することについて、以下のように記載があります。

一般的には、モニタリングに当たっては、下記のような項目を比較検討することが考えられる。

(元本確保型商品)
 ◆金融機関の信用(破綻リスク)
 ◆満期が同期間の他商品との利回り比較
 ◆預かり残高の伸び

(投資信託商品)
 ◆定量評価(主にデータで示されるもの)
  ・ベンチマーク対比の運用成績(実績だけで評価しない)
  ・他の同種の投資商品の成績と比較した運用成績(異なる投資対象の商品を混ぜて比較しない)
  ・リスク調整後リターン(シャープレシオ)(リスクに応じたリターンを得ているか見る)
  ・運用手数料の水準(同種の投資対象、同種の運用方針で比較)
  ・純資産総額の推移
  ・資産配分や資産運用の状況(運用計画と比して) 等
 ◆定性評価
  ・運営体制、リスク管理体制
  ・情報収集や分析体制
  ・運用体制、人材、異動の状況
  ・投資哲学
  ・投資プロセス
  ・ディスクロージャーの状況 等

企業型確定拠出年金制度運営ハンドブック「制度導入後の商品モニタリングについて」(企業年金連合会) より

ここで言うモニタリングとは、厚生労働省が少なくとも5年に1度は言うところの「運営管理機関の評価」と似たようなものです。特に商品ラインナップについてのモニタリングですね。

そうしたモニタリング行為について、具体的な評価ポイントを述べています。いろいろ見てきましたが、確定拠出年金法を頂点としつつ、法令解釈通知などを経て、このハンドブックが最も具体的にポイントを示していますね。

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よい商品を探してみよう

ここまで確認してきた観点から、今回は「よい商品」の基準として以下を定めてみます。なお、よい商品の評価を行うのは同種判定が容易なインデックスファンドのみとします。

  • 手数料が低いこと
    • 主に信託報酬、信託財産留保額(必要に応じて運用報告書から確認)
    • 0%に近いことが望ましい
  • 純資産総額が大きいこと
    • 100億円以上であることが望ましい
  • トラッキングエラー(ベンチマーク乖離率)が低いこと
    • 0%に近いことが望ましい

評価対象資産

インデックスファンドのみを対象とするとしましたが、さらに評価対象とするのは、各金融機関にラインナップされる以下のインデックス連動投資信託です。

資産種別投資対象地域対象インデックス
株式日本東証株価指数(TOPIX)
先進国MSCI-KOKUSAI
新興国MSCIエマージング・マーケット・インデックス
債券日本NOMURA-BPI総合
先進国FTSE世界国債インデックス
新興国JPモルガン・GBI-EM・グローバル・ディバーシファイド

評価対象金融機関

金融機関としては星の数ほどありますが、メガバンクを対象としてみます。
それぞれ、以下のように商品を公開していますね。

よい商品の評価結果

それでは各金融機関ごとに、よい商品をみてみます。

三菱UFJ信託銀行

合計インデックスアクティブ信託報酬
0.5%以下
信託報酬
0.5-1.0%
信託報酬
1.0%以上
信託財産
留保額あり
24812712194559946
100%51%49%38%22%40%19%

三菱UFJはメガバンクの中では唯一提供商品に占めるインデックスの割合が50%以上でした。ただ一方で、信託報酬1.0%以上の商品が40%と、最も多い割合になっています。

資産種別投資対象地域ファンド名純資産総額信託報酬
株式日本年金インデックスファンド日本株式(TOPIX連動型)537.5億円0.154%
先進国野村外国株式インデックスファンド・MSCI-KOKUSAI(確定拠出年金向け)1898.9億円0.154%
新興国つみたて新興国株式41.57億円0.374%
債券日本野村国内債券インデックスファンド・NOMURA-BPI総合(確定拠出年金向け)665.8億円0.132%
先進国野村外国債券インデックスファンド(確定拠出年金向け)383.6億円0.154%
新興国 iFree 新興国債券インデックス38.1億円0.242%

インデックスファンドとしてはこの通りですが、バランスファンドとして三菱UFJプライムバランスシリーズが純資産総額が大きくなかなか安心でした。中でも、安定成長型は純資産総額で2000億円を超えており、確定拠出年金商品として屈指の規模となっています。このあたりはファンド名の名付けが重要なんだと痛感しますね。

バランスファンドとしては、三菱UFJ DC年金バランスシリーズが0.154%と低い信託報酬なのですが、いずれのファンドも純資産総額が約4億円程度と、ほとんど人気がないようでした。

みずほ銀行

合計インデックスアクティブ信託報酬
0.5%以下
信託報酬
0.5-1.0%
信託報酬
1.0%以上
信託財産
留保額あり
297133164135639846
100%45%55%45%21%33%15%

みずほ銀行はメガバンクの中では最も取り扱い商品が多く、信託報酬の安い商品がメガバンクの中で最も多いようでした。

資産種別投資対象地域ファンド名純資産総額信託報酬
株式日本野村国内株式インデF野村DC482.1億円0.154%
先進国Oneたわら先進国株式470.0億円0.110%
新興国野村新興国株式インデックス290.1億円0.616%
債券日本野村国内債券インデックスファンド・NOMURA-BPI総合(確定拠出年金向け)665.8億円0.132%
先進国野村外国債券インデF野村DC383.6億円0.154%
新興国三菱UFJ DC新興国債券103.5億円0.572%

みずほ銀行で特徴的なのが、メガバンクの中で唯一信託報酬0.11%のOneたわら先進国株式をラインナップしているところです。
純資産総額の点では野村に及びませんが、頭一つ抜けた信託報酬の安さから、今後も順当に純資産総額を伸ばしていくのではないかと思われます。

また、みずほ銀行でユニークなのが、取り扱い商品にひふみ年金が入っていることです。信託報酬0.836%と、インデックスファンドに比べれば高いですが、アクティブファンドとしてはかなり安い部類に入りますね。

また、バランスファンドとしても信託報酬0.154%のファンドが並んでいることと、Oneたわらバランス8資産均等がラインナップされており、これも特徴の1つだと感じました。

三井住友銀行

合計インデックスアクティブ信託報酬
0.5%以下
信託報酬
0.5-1.0%
信託報酬
1.0%以上
信託財産
留保額あり
25011513585739239
100%46%54%34%29%37%19%

三井住友銀行の商品分布は、見てわかるように三菱UFJとほぼ同じですね。

資産種別投資対象地域ファンド名純資産総額信託報酬
株式日本野村DC国内株式インデックスファンド・TOPIX162.5億円0.154%
先進国野村外国株式インデックスファンド・MSCI-KOKUSAI(確定拠出年金向け)1898.9億円0.154%
新興国三菱UFJ DC新興国株式インデックスファンド201.76億円0.605%
債券日本野村国内債券インデックスファンド・NOMURA-BPI総合(確定拠出年金向け)665.8億円0.132%
先進国野村外国債券インデックスファンド(確定拠出年金向け)355.8億円0.154%
新興国 三菱UFJ DC新興国債券インデックスファンド77.2億円0.572%

ラインナップされているファンドも三菱UFJと同様で、あまり注目すべきファンドがありません。

こちらでラインナップされている信託報酬0.154%の野村マイバランスシリーズは、三菱UFJと違って十分な純資産総額があるようです。

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まとめ

企業型確定拠出年金は、契約主体が会社である上に、重要な雇用条件でもある退職金制度の側面も持っているため、商品変更のハードルが非常に高くなっています。

しかし、2018年7月から運営管理機関の評価が、2019年7月から各運営管理機関が提供する商品の一覧が公表されるようになるなど、徐々にオープン化と改善の動きが感じられます。

これからさらにiDeCo加入が広がるようになれば、相対的に魅力の低い商品を構える企業型の評価、ひいては会社の福利厚生の評価が下がることになるため、長期的には改善が進んでいくのではないかと考えています。

現時点で信託報酬が一般の投資信託並みに競争力を持っているのが、みずほ銀行のOneたわら先進国株式くらいのもので、かなりの商品が信託報酬1%を超えるような高コスト商品になっています。
また、近年投資家に人気の高いS&P500など米国株式のインデックスファンドや、高い分散効果が見込める全世界株式型のファンドについてもラインナップに存在していません。
このあたりは、競争原理の働きやすいiDeCoにおいてSBI証券 / 楽天証券 / マネックス証券がしのぎを削っているところですが、企業型においても同様に商品改善が進み、企業型DCのデメリットにならないようになってほしいものです。

商品変更の際には、加入者である社員の長期的な利益を十分に考慮しなければいけないため、少しでもよい商品への変更ができるよう、今回のような情報を頭に入れておくとよいでしょう。

また、もしこのページを企業の確定拠出年金担当者がご覧になるのであれば、各企業においてよりよい商品ラインナップに向けた改善が進むことを期待します。

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