書評: 理科系の作文技術

こうしたブログを書く際はもちろん、いつの時代も「文章を書く」ということは重要なスキルです。
そのため、文章力に焦点を当てた本は多く出版されていますが、そうした文章力に関する本の中でも古典にあたるのがこの本です。

「理科系」「技術」と銘打っている分、お堅い内容ではありますが、古典らしく色褪せない良さが散りばめられています。

オススメ対象者

まずはこの本のオススメ読者です。

  • 他人から見て、「わかりやすい」文章を書く技術を磨きたい人

です。

「理科系の」と断っているため人によっては少したじろぐところもあると思いますが、それはこの本が目指す文章の様式によるものでです。そのため、読者自身が理科系であるかどうかではなく、「その文章が理科系の仕事に使われる」ことが強く意識されています。

確かに私も元々この本を手に取ったのは理科系の大学生でレポートなどを書いていた時ですが、こうしてブログを書くようになって改めて、「文章を書くということ」を振り返ろうとこの本を読み返しました。
そうして再びこの本をふわっと眺めたとき、ブロガーとしても大いに役立つ部分が多くあったため、必ずしも理科系に限らずとも有用な内容はたくさんあるように思いました。
新書サイズで200ページくらいなので、小難しい部分を飛ばして読めば2時間もかからないと思います。

SNS時代においては文章へいかに共感してもらうか、というエモーショナルな側面が重要だと言われますが、これはそれ以前の「文意を正確に伝える」ことに主眼を置いた本と言えます。

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概要

先ほど、オススメ対象者を「わかりやすい文章」というキーワードで表現しましたが、この本自身としては、想定読者を以下のように書いています。

私がこの書物の読者と想定するのは、ひろい意味での理科系の、わかい研究者・技術者と学生諸君だ。これらの人たちが仕事でものを書くとき――学生ならば勉学のためにものを書くとき――に役に立つような表現技術のテキストを提供したい、と私は考えている。

1.2 この書物の目標 より

そのため、この本で述べる文章というものを以下のA/Bに分類した時、ターゲットとするのはB類だという前提で書かれています。

  • A類:自分だけが読むもの
    • A-1:メモ、手帳の類
    • A-2:実験ノート、野帳、仕事日記
    • A-5:講義や講演をするためのノート
  • B類:他人に読んでもらうもの(仕事の文書)
    • B-1:要件の手紙やメモの類
    • B-2:調査報告、出張報告、技術報告
    • B-8:構造説明書、使用の手引き

また、これは各類の中でも下にいくほど制約が強くなるように分類されています。
例えば、B-1は仕事の文書とはいえ、互いによく知っている間柄での簡単なメモが想定されますが、B-8などは全くの他人、あるいは10年後の他人にすら伝わることが求められるものです。

このように、一言に文書と言っても、留意すべき点は想定読者に強く左右されます。
こうしたことは「検索者の意図を汲んで記事を書くべし」といったSEOテクニックにも通じるところがあり、必ずしも理科系に留まらないノウハウが含まれていると感じました。

それでは、そうした具体的なテクニックをいくつか取り上げながら、感想をまとめていきます。

文章を書く前に

まず最初に出てくるのが、「文章を書く前に何を考えるか」ということです。

この本の目次からキーワードを拾えば、

  • 文書の役割の確認
  • 主題の選定
  • 目標規定文
  • 材料集め

というような内容です。

文章を書こうとする場合、「あれについて書いてみようかな」となんとなく書き始めることもあると思いますが、実際に筆を手に取る前に、こういったことをチェックリスト的に意識しておくとよいという内容です。

文書の役割は何か?

最初に出てくる「文書の役割」というものは、先ほど述べたようなA/B類の大分類に加え、A-1とかB-3とかいう小分類を決めるということです。
基本的にはこの本と同じくB類の文書を書くことが多いと思いますが、読者の想定に対してあまりに大量の材料を集めても仕方ないので、何よりも先に文書の役割をはっきり意識しようというわけですね。

主題の選定と目標規定文

もう1つ大事なことが、「主題の選定」です。
主題とは要するにテーマのことで、この記事であれば「理科系の作文技術という本を読んだ感想」が主題にあたります。

この本では、原則として1文書1主題だとしていて、複数の主張を1つの文書ですべきではないと一貫しています。このあたりは論文などを想定する「理科系」らしいところだなと思う一方で、こうしたことはブログの書き方ノウハウなどでもよく言われます。

そのこともあり、文書の冒頭で「目標規定文」を挿入することを勧めています。
目標規定文とは、その文書の主題に絡み、「要するにこの文書を通じて言いたいこと」を示す文章のことです。
これまたこの記事でいけば、「オススメ対象者」がそれにあたります。

論文などのアカデミックな文書であっても、起承転結のように「最後にネタバラシ」するような様式がかつてあったことにも触れていますが、最近では主題と目標規定文を冒頭ではっきりと掲げ、その目標に向かって理路整然と文章を連ねていくことが望ましいと書かれています。

なので、この記事全体を見ずとも、タイトルと最初の見出しで

  • 主題:理科系の作文技術という本を読んだ感想から
  • 目標:他人から見て、「わかりやすい」文章を書く技術を磨きたい人にオススメできること

を伝える文書なのだということがわかります。(…わからなかったらスミマセン)

文書の組み立て

そうして、事前準備を尽くして実際に文書の内容を考え始めるとしましょう。

この時点で頭にあるのは、

  • 文書の主題
  • 文書の目標

を最たるものとして、もう少し言えば

  • 文書の役割
  • 文書の想定読者
  • 文書の材料

などが考えられます。
ではその目標に向かってどのような流れで材料をつなげていくと、当初の目標がスムーズに達成されるかを考えるのが文章の組み立てにあたります。

パラグラフとトピックセンテンス

文章の組み立てを考えるということは、パラグラフの流れ、そしてトピックセンテンスの流れを考えることとも言えます。

まず、パラグラフとトピックセンテンスが何かに言及しておくと、

パラグラフ

パラグラフとは段落や節のことで、複数のセンテンス(文)から構成される

トピックセンテンス

トピックセンテンスとはパラグラフの先頭に置かれ、パラグラフの要点を示すセンテンスのこと

という説明になります。

ブログを書くことを念頭に言うなら、パラグラフは「見出しで区切られる段落のかたまり」であって、トピックセンテンスは「段落ごとの要点」のようなところでしょうか。

Twitterなどの短文では意識しないところですが、ブログを書く上では「適度に見出しをつけよう」というように言われますね。

これも結局は目標規定文の話と同じで、早めにネタバラシしておくことで、読者により主張に向けた論理の流れが入りやすくなるというテクニックだと感じます。

文書の展開順序

最初に見定めた主題と目標からすれば、パラグラフやトピックセンテンスは目標に至るための材料にあたります。そのため、その材料を適切な順序で読者に見せていくことで、よりスムーズに目標へと導くことができます。

先ほども触れた通り、起承転結のような発想もありますが、伝えたいことを明確にしたい場合には、重点先行型の文章がよいとされています。
以下の2つを比べてみてください。

先日、新宿駅から歩いて10分ほどのところにある会場のイベントに行くところだったのですが、駅を降りたときに不意の雨に見舞われました。仕方なく時間つぶしをかねて駅前のラーメン屋に入ったところ、なんとそこでどストライクに美味しいラーメンを食べました。

先日、とても美味しいラーメンを食べました。その日は新宿駅から歩いて10分ほどのところにある会場のイベントに行くところだったのですが、駅を降りたときに不意の雨に見舞われました。仕方なく時間つぶしをかねて駅前のラーメン屋に入ったところ、なんとそこでどストライクの出会いがありました。

簡単な例ですが、後者が重点先行型の文章です。
トピックセンテンスとなる「とても美味しいラーメンを食べた」ということが先頭に置かれ、全体の文意からして「新宿」「10分」「イベント」に対した意味はないことがわかります。

一方で、前者の文章はその文意が最後に置かれているために、読者は何が重要な点かわからずに緊張した状態で読み進めることになります。

こうした「緊張」は小説などではハラハラ・ドキドキといった興奮を呼びますが、落ち着いた論説においては「さっさと言えや!」というような苛立ちにつながってしまいます。

どちらの文章も全部読めば文意は伝わりますが、どういう文章を目指すかによって良し悪しが変わってきます。主張を間違いなく伝えることを目指すのであれば、読者に「何の話かな?」と思わせる余地なく、「次は美味しいラーメンの話をします」と断ってあげることで、緊張感少なく文章を読ませることができるというわけです。

はっきりと言い切る姿勢

本の中盤で「はっきりと言い切る姿勢」が大事だという話が出てきます。
先ほどの重点先行の話にも関わりますが、日本語はどうしても文意が後ろに、そしてぼんやりと表現される傾向にあります。
これは言語学的な特性であり、日本人が受け継いできた伝統的な価値観によるところではありますが、論文などではあまり適さない表現様式と言われます。

そうしたことから、文意をはっきり伝えたいと思うのであれば、はっきりと言い切る姿勢で文章を書くべきだということをここで述べています。

はっきりと言うことはなかなか簡単なことではないために、それを促すようなテクニックも本書の中に含まれています。それが先ほどの重点先行型の組み立てであったり、文を短くすること、主語と述語を関係を明確にすることなど、小さな主張を連続させることがはっきりと言い切る姿勢や習慣に繋がっていきます。

正直このあたりは個人的に苦手とするところで、どうしても文末に「思います」とか「考えられます」みたいなぼんやりとした表現を使ってしまいがちです。
このあたりは一朝一夕で治らないものではあるので、いい機会として今後のブログ執筆では気を付けていきたいと思います。

…いえ、気を付けます。

事実と意見

ノウハウ部分の後半で「事実と意見」という内容が出てきますが、この部分がとても大事だと感じました。
ブログなど、これからのメディアにおいては事実の列挙だけで差別化できることはなく、それらに対する意見による差別化が大事だと言われます。

そのため、事実や意見とは上手く付き合っていく必要があるのですが、そもそも何が事実にあたり、何が意見にあたるかということは意外と書き手にとって大事な感性になってきます。

  • 事実:他人が容易に合意できるもの
    • 記録 / 結果 / 現象 / …
  • 意見:必ずしも他人が合意できないもの
    • 推論 / 判断 / 仮説 / …

要するに、「断定してよいもの」と「断定してはいけないもの」を前提としてはっきり認識しておくということです。
誰もが事実だと思うことの根拠を延々と述べていても、「この人は丁寧で慎重な人だ」と思われず、「主張のくどい人だ」と思われるだけですし、意見に類するものの根拠を省略してしまうと「何言ってるのかわからない人」となってしまいます。

こういった、「何を事実に位置づけ、何を意見とみなすか」という感性は読者の想定と密接に関わってきますし、このラインを操作することで意図的に内輪向けの文章を作り出すこともできるでしょう。

読者の疑問や興味に的確に応えるためにも、自分が何を事実とし、何を意見とするのか、そしてその線引きは読者にとっても自然なのかどうかはよく意識しておく必要があるでしょう。

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まとめ

今回はこの「理科系の作文技術」をおよそ10年ぶりくらいに読んでみました。

当時は論文などを書いているような時期であったため、特に疑いもせず、全くその通りだと同意するばかりで読んでいました。
一方で、今こうしてブログを書くようになってから読んでみると、ブログノウハウとして挙げられているような「読者の想定」であったり「1記事1テーマ」というような共通点がこの本にもはっきり表れていたことに気付きました。

この本はあくまで論文のような仕事の文書を主眼においていますが、「情報を正確に伝えること」に特化した内容を学ぶことは、ブログでも大事な「わかりやすい文章を書く」ための土台になる話ですので、以前と違うモチベーションではありましたが、改めて読んで収穫のある内容でした。

最後に、「情報を伝える」ということの特徴に触れている部分がありましたので、それを引用して終わりします。

他人に読んでもらうことを目的として書くものは、ここでいう仕事の文書にかぎらない。その代表は詩、小説、戯曲などの文学作品である。用件以外の、ひとと心を通わせる手紙などもその例だ。これらと対比して理科系の仕事の文書の特徴はどこにあるか。それは、読者に伝えるべき内容が事実(状況をふくむ)と意見(判断や予測をふくむ)に限られていて、心情的要素を含まないことである。
今後、事実や状況について人につたえられる知識、または人からつたえられる知識を情報ということにするが、このことばを使えば、理科系の仕事の文書は情報と意見だけの伝達を使命とするといってもいい。

1.2 この書物の目標
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