書評: おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密

お金を手に入れる方法、6つ言えますか?

突然このように問われたとき、あなたは瞬時に即答し、それがどういう行為なのか説明できるでしょうか?

この本は、この単純な問いを通じお金についての理解を深める小説となっています。

オススメ対象者

この本をオススメできるのは、

  • お金のことを、先入観なく考えたい人

だと感じました。

この本は、主人公である2人の中学生が先生に導かれながら、お金や経済について自分なりに考え、理解を深めていくストーリーとなっています。
中学生を対象とするため、専門的な知識や、歴史的な経緯を含めた前提を極力排し、まず先入観なくお金と向き合っていくことが特徴です。

そうしたストーリーを読者自身でも向き合いながら読み進めていくことで、同様に理解を深めることができるようになっています。

概要

この本の著者の高井さんは経済記者として、20年以上資産運用やマーケット、国際情勢などを専門としてきました。

あとがきで触れられているように、この本はそんな高井さんが、娘たちに向けて家庭内連載した内輪な読み物が元となっています。

経済やお金の仕組みがわかる、楽しい読みものを探したのですが、しっくりくる本が見つからず、いっそ自分で書いてしまおう、と思ったのが運の尽き。2~3か月の予定だった連載は、長期休載を挟んで延びに延び、結局、完結に7年もかかってしまいました

あとがき より

そうした読み物であるため、基本的には読みやすくまとまっていますが、お金を媒介として、単純な導入からは思いもしないほど様々な内容に展開しています。
こうした展開の仕方は、さすが長い間世界と経済をみてきた記者ならではだなと感銘を受けるとともに、そうした見方をしつつも、なおこうした文章が紡ぎだせる心の在り方はとても素晴らしいと思いました。

それでは、いくつかの切り口で振り返ってみたいと思います。

お金を手に入れる方法

この本の始まりは、主人公がそろばん勘定クラブに入ること、そしてそろばんではなくお金のことを学ぶところから始まります。

この本の中で、表向きの主題となっているのは「お金を手に入れる方法とは何か」という問いです。

クラブの初日、これを問われた主人公たちはいくつかの例とともに、

  • かせぐ
  • ぬすむ
  • もらう

の3種類を挙げました。
導き人である先生は、この3種を認めた上で

この3つ以外に、お金を手に入れる方法を3つ挙げなさい。

1時間目 そろばん勘定クラブへようこそ より

という宿題を出し、主人公たちは残りの3つを探しながら、お金というものへの理解を深めていくことになります。

社会との関わり方

残るお金を手に入れる方法を考える一方で、既に挙がった方法が、本質的にどういったことを指しているのかというところにも考えが及びます。

詳しくは、実際に読んでいただければと思いますが、これらの分類は「お金を媒介とした、社会との関わり方」を指すものだと私は理解しました。

大雑把な基準として、

  • 一人あたりGDPより稼いでいる人は、かせぐ人
  • 一人あたりGDPより稼がない人は、もらう人

などという話が出てきます。これらはいずれも社会に発展させたり、社会の営みをそれぞれの立場で構成しながら、社会に貢献している人たちですが、その対称として社会に貢献しない、「ぬすむ人」の存在も想起されます。

ただし、ぬすむ人の中にあっても、人間社会の中で無くすことができなかった「必要悪」の存在にも触れ、さらに考えを深めていて、そろばん勘定クラブというライトな入り口から入りながらも、ぐっと心に迫られる思いがしました。

「だから、ワタクシが戦争と軍人を必要悪と呼ぶときには、痛みがあるのです。自分自身の手足が世界に害をなすものであると認める痛みが。子どもたちの世代に戦争のない世界を引き継げなかったという痛みが。なぜならワタクシも、その必要悪を抱え込んだ社会の担い手だからです。戦争も軍人も、人ごとではないのです。」

7時間目 戦争と軍人 より

「もう大丈夫です」

そして、最終的には6つ目の方法にたどり着くとともに、主人公たちが抱えていたお金に対するモヤモヤについても、一定の納得を得るに至ります。

そうした主人公たちに、先生は次のような言葉を贈ります。

「しかし、いや、だからこそ、お金には魔力がある。人々を狂わせ、誤った道へと誘う魔力がある。人々を『ぬすむ』という恥ずべき行為に走らせる魔力がある。人々にお金が人生の目的だと錯覚させる、金銭崇拝に陥らせる魔力がある。」

カイシュウ先生はとても長い間をとり、最初に僕、次にビャッコさんの目をじっと見つめた。

でも、お二人はもう大丈夫です。ビャッコさん、サッチョウさん。これからの人生、お金に惑わされず、でもお金を大切にして、しっかり歩んでいってください。」

カイシュウ先生が、とびきりの笑顔を見せた。

18時間目 6番目の方法 より

先生が言う通り、お金には魔力があります。
しかし一方で、そんなお金は人を助けたり、社会を発展させる力も持っています。
私も、そうした大きな力について、自らの心で感じ、自らの頭で考える機会をもつことで、この社会とよい関わり方ができればよいと強く思いました。

本当に読むべきは誰か

私たちが大人と呼ばれる存在になる頃には、お金について色々なイメージを持っていることと思います。
とても大事なことであるにも関わらず、義務教育の中で「お金とはなんであるか」を教える科目はなく、この本で掘り下げたような、自分や社会にとっての意味を考えて大人になる人は少ないでしょう。

そういったことから、この本を読んで感銘を受けた方はとても多いと、たくさんのレビューを拝見しながら感じています。私ももちろんそうです。

この本の発端がそれに近かったように、そうしたレビューのいくつかに「子どもにも読ませます」といった意見が見られました。
そう思うのは無理もないほど、非常によくできた教材だと私も思います。

しかし、教育という活動の中ではよい教材とともによい教師もまた必要であると私は思います。
自分の子は、この登場人物のようにすぐには興味を持ってくれないかもしれない、あるいは先生の導きをスムーズに受け入れられないかもしれない。
このように、教材の力を額面通りに受けられないケースが多々あることから、やはり教師の存在が重要になると考えています。

教材を外れたところでしか納得を得られない場合、そこまで導く教師の役割は他でもない、この本を贈った親や大人たちの使命だと言えるでしょう。
だからこそ、この本を本当に読むべきは、これからを担う子どもたちではなく、他でもない私たちだと感じました。

私も、高井さんのようにいつか自分の子どもたちに、自分の言葉でお金のことを善く伝えられればよいと思います。

まとめ

まず、総評として、とても素晴らしい本でした。
お金に関しての本と言えば、どうしても堅苦しい金融理論などをイメージしますが、真に理解すべきは、「お金という道具の存在意義」だと思います。
私も このサイトについて で触れていますが、それ自体で善悪を示さないお金が、なぜ様々な捉え方をされるのか、それを自分なりに掘り下げたいと思ってきました。

本書でも、ウォーレン・バフェットの言葉として、「やる価値のないことなら、うまくやる価値もない」という言葉を紹介していますが、頭でっかちな金融理論を勉強するよりもまず、「お金というものは、自分にとって何なのか」という原初的な問いと向き合う必要があるのだと感じました。

私たちがまずこの本の内容と深く向き合い、私たち自身が数多の「カイシュウ先生」として、これからの子どもたちの理解を助け、社会に貢献していくのだと思うと、この社会の一員である社会人として身の引き締まる思いがしました。

ちなみに、本書は2020年8月時点でPrime Readingの対象となっていますので、もしAmazon Primeに加入されている方はぜひこの機会に読まれることをオススメします。

参考書籍

この本に関連して、「お金というものの向き合い方」という観点では、以下のような本も参考になると思いました。
このあたりの本もいずれ書評に起こしたいと思いますが、今回は紹介だけ。

まずはひふみプラスで有名なレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんの本です。おカネの教室でも資産運用会社を営む高山さんという方が出てきますが、個人的な印象として「藤野さんみたいな人だなぁ」と思いました。
この本でも、資産運用や投資という営みを通じて、社会の善いところにお金を届け、社会に貢献するといった内容が綴られています。

続いて、こちらもおはなし風の体裁で、読みやすい構成になっています。
なぜかマネーという犬が喋る、その上お金についていろいろアドバイスをくれるという内容になっていますが、こちらも主人公の視点でいろいろ考えていくことで、お金をかせぐということがどういった意味を持つのかを掘り下げる内容になっています。