かつてほど耳にしなくなったFinTechという言葉ですが、その申し子である様々なモバイル主体の決済/ウォレットアプリは徐々に多様化が進んでいます。
一昔前までは「スマホアプリだけでVisaプリペイドカードが使える」くらいの理解で問題ありませんでしたが、最近では機能の進化やサービスごとの差別化が進んでいるため、改めて各サービスを比較しながら最新情報をアップデートしてみます。
Contents
モバイルプリペイドカードアプリ
このブログでも何度か取り上げていますが、昨今スマホアプリを主体とし、クレジットカードライクに使うことができるアプリがいくつか出てきています。
中でも古株なのはKyashやバンドルカードといったものですが、その後類似アプリがいくつか出てきており、一見どれも同じような機能を備えているように見えるため、まとめて整理してみたいと思います。
今回はそうしたモバイルプリペイドカードアプリの中から、以下の5つを取り上げ、共通の切り口で機能比較をしていきます。
- VANDLE CARD(カンム)
- Kyash(Kyash)
- MIXI M(MIXI)
- Revolut(Revolut)
- B/43(SmartBank)
- IDARE(Fivot)
比較の考え方
このあと、各アプリの機能や仕様について比較を行っていきますが、会社によってはいくつかのプランで機能が異なっている場合があります。
各プランについて細かく比較してもよいのですが、あまり細かくてもかえって分かりづらくなるため、
- 年会費が無料の範囲内で比較する
- カード発行費等、初期費用がかかるものは許容する
- 各プランのうち、本人認証等を済ませるなど極力機能制限のないプランを考える
こととします。
例えばRevolutの場合、1,980円/月かかるメタルプランで決済還元率1.0%を得られますが、特殊な例なので比較対象から外れるようにします。試みとしては面白いんですけどね。
各サービスの比較
それではここから各サービスの機能を比較していきます。
できる限り同じ観点で比較ができるように見ていますが、同じ言葉を使っていても各サービスによって微妙に機能が異なる部分がある点は予めご了承ください。
(例えば、一言に「オートチャージ」と言っても、残高連動型のオートチャージと日付指定型のオートチャージがある点など)
VANDLE CARD
VANDLE CARD(バンドルカード)は株式会社カンムが提供する「誰でも作れるVisaプリペイドカード」です。
サービス開始が2016年と、今回紹介するアプリの中では最も歴史あるアプリとなっています。
VANDLE CARD | |
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サービス開始 | 2016/09 |
チャージ方法 | 現金/仮想通貨/クレジットカード |
チャージ可能ブランド | Visa/Mastercard |
決済ブランド | Visa |
バーチャルカード | ○ |
リアルカード | ○ |
リアルカード発行手数料 | 700円 |
決済上限(1回) | 100万円 |
決済上限(月間) | なし |
残高上限 | 100万円 |
決済還元率 | 0% |
残高還元率 | 0% |
残高出金 | × |
個人間送金 | × |
共有口座 | × |
オートチャージ | × |
後払いチャージ | ○ |
使い捨てバーチャルカード | × |
3Dセキュア | ○ |
タッチ決済 | × |
サポートページ | https://support.vandle.jp/hc/ja |
主な特徴
VANDLE CARDは自らが「Visaプリペイドカードアプリ」を謳っていることもあり、個人間送金やウォレット/家計簿の機能を持っていません。
3Dセキュアや後払いチャージ機能は備えているため、「クレジットカードを作れないけどカード決済したい」という人を特に意識したサービスとなっています。特に、今でこそいくつかのアプリで導入された後払いチャージですが、2018年にVANDLE CARDが「ポチっとチャージ」として先んじてサービス提供を始めています。
なお、VANDLE CARDそのものとしては残高還元の機能を有していませんが、同じカンムがリリースするアプリ「pool」において残高の年率1%還元が受けられる類似機能が備わっています。
Kyash
続いてKyash(キャッシュ)は株式会社Kyashが提供する「デジタルウォレットアプリ」です。
VANDLE CARDから少し遅れての登場でしたが、登場当初は決済還元率2.0%を誇り、クレカ還元率を高めるマネーハックアプリとして多くのユーザを獲得していました。
Kyash | |
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サービス開始 | 2017/04 |
チャージ方法 | 現金/クレジットカード |
チャージ可能ブランド | Visa/Mastercard/JCB/AMEX |
決済ブランド | Visa |
バーチャルカード | ○ |
リアルカード | ○ |
リアルカード発行手数料 | 900円 |
決済上限(1回) | 30万円 |
決済上限(月間) | 100万円 |
残高上限 | 100万円 |
決済還元率 | 0.2% / 1.0% |
残高還元率 | 0% |
残高出金 | ○ |
個人間送金 | ○ |
共有口座 | ○ |
オートチャージ | ○ |
後払いチャージ | ○ |
使い捨てバーチャルカード | × |
3Dセキュア | ○ |
タッチ決済 | ○ |
サポートページ | https://support.kyash.co/hc/ja |
主な特徴
Kyashの特徴は自ら標榜する通り、「デジタルウォレットアプリ」であるということです。
他のアプリとの比較を見てわかる通り、今のところ一通りの機能を備え、決済から個人間送金までそつなくこなすアプリとなっています。
しかし、今でこそ多機能なデジタルウォレットアプリを謳っていますが、当初は無料送金アプリという側面を押し出しており、何度か方向転換(見せ方転換)を行っていることも特徴です。
当初の特徴であった決済時の還元については2.0%→1.0%→0.2%と縮小を続けてきましたが、決済還元で追従してくる競合がいなかったため、現在でも一定の存在感を示し続けています。
その他、共有口座機能も類似するB/43のペア口座機能より柔軟に使うことができ、デジタルウォレットアプリとして高い機能性があります。直近では、チャージ元にJCB/AMEXカードを追加するなど、柔軟性をさらに高めてきています。
MIXI M
MIXI M(ミクシィ エム)は株式会社MIXIが提供する「M型ウォレットサービス」です。
なお、「M型ウォレット」というのはMIXI Mの独自用語と思われ、おそらくMIXI Mの機能やユーザがM型に重なり、繋がるというコンセプトを現した言葉なのだと思われます。
MIXI M | |
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サービス開始 | 2019年(クローズド) |
チャージ方法 | 現金/クレジットカード |
チャージ可能ブランド | Visa/Mastercard |
決済ブランド | Visa/JCB |
バーチャルカード | ○ |
リアルカード | ○ |
リアルカード発行手数料 | 800円 |
決済上限(1回) | 50万円 |
決済上限(月間) | 50万円 |
残高上限 | 100万円 |
決済還元率 | 0% |
残高還元率 | 0% |
残高出金 | × |
個人間送金 | ○ |
共有口座 | × |
オートチャージ | × |
後払いチャージ | × |
使い捨てバーチャルカード | × |
3Dセキュア | ○ |
タッチ決済 | ○ |
サポートページ | https://support.m.mixi.com/hc/ja |
主な特徴
MIXI Mは元々6gram(ロクグラム)という名称で2019年に招待制アプリとしてスタートしましたが、その後MIXI Mに改称され、オープン型のサービスへと移行した経緯があります。
6gramからの改称理由としては、
「6gram」は、アプリとリアルカードが連携した“一体型”のキャッシュレス決済サービスとして多くのユーザーにご利用頂いておりましたが、今後、決済・個人データ・ID認証を管理する統合プラットフォームとして展開していくにあたり、ミクシィのサービスであることがユーザーにも分かりやすい、「MIXI M」というサービス名称に変更いたします。
サービス名称の変更について より
と述べられており、今後のMIXIサービスの基盤となる戦略サービスであることから、MIXIのものであることが分かりやすいものにしたということのようです。
従って、旧来キャッシュレス決済サービスとして6gramが展開していたことを思うと、今回の比較に並ぶことに違和感はないものの、今後の展開次第ではずいぶん他と性格の違うサービスになる可能性があるということですね。
公開されているロードマップを見ると、ID基盤としての拡充や、NFT連携の機能追加、CtoCプラットフォームの整備などが掲げられており、単なる決済に留まらないサービスを目指しているようです。
このように、思想的には他と異なる方向性を持つMIXI Mですが、今のところ機能として特筆すべきものはあまりありません。少し前までは、こうしたプリペイドカードアプリを渡り歩くための抜け道として活用されることが多かったですが、そうした経路も徐々に塞がれていき、名前を聞くことが少なくなってきました。
他にない特徴としてはVisaに加えてJCBカードとして決済できるところがユニークなところです。
Revolut
Revolut(レボリュート)は英国Revolutの日本法人、Revolut Japanが提供する簡単な資金管理から、旅行特典や投資までをカバーする、「金融版スーパーアプリ」です。
本場英国ではRevolutアプリ上で株式取引まで可能になっており、名実ともに金融版スーパーアプリとなっていますが、日本版Revolutでは様々な法規制のためか、今一つサービス強化が進んでいないようです。
Revolut | |
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サービス開始 | 2020/10 |
チャージ方法 | 現金/クレジットカード |
チャージ可能ブランド | Visa/Mastercard |
決済ブランド | Visa |
バーチャルカード | ○ |
リアルカード | ○ |
リアルカード発行手数料 | 0円 |
決済上限(1回) | なし |
決済上限(月間) | なし |
残高上限 | なし |
決済還元率 | 0% |
残高還元率 | 0% |
残高出金 | ○ |
個人間送金 | ○ |
共有口座 | × |
オートチャージ | ○ |
後払いチャージ | × |
使い捨てバーチャルカード | ○ |
3Dセキュア | ○ |
タッチ決済 | ○ |
サポートページ | https://www.revolut.com/ja-JP/help |
主な特徴
本場Revolutに及ばない現在の日本版Revolutですが、今回比較しているような競合アプリとの比較で言えば、「リアルカードが無料で発行できる」というところがあるでしょう。
Revolutはアカウントを開設するとリアルカードが3枚無料で発行され、それぞれについて決済上限や有効/無効の制御などを行うことができます。
メインとなる財布の他に、ちょっとした外出用の財布を持ったりする場合、カードの移し替えが必要になったりしますが、Revolutの場合、同機能のカードを複数枚持てるのでそういった悩みがなくなるメリットがあります。また、もし紛失したとしても他のサービス同様、アプリからカードの無効化が可能なため、複数枚を持つリスクについても適切に対処できるようになっています。
その他、Revolut特有の機能としてはウォレット残高を使って金や銀に投資できたりとか、個人間送金においてスケジュール設定ができたりするなどがあります。中でも、今一つ信用できないネットサービスの決済を行うために、使い捨てのVisaバーチャルカードを気軽に発行できるのは他にない強みと言えます。
このあたりはRevolutが本来目指している金融版スーパーアプリの思想を考えれば当然といえば当然なのですが、今のところ片手落ちという印象なので今後に期待したいところです。
B/43
B/43(ビーヨンサン)は株式会社SmartBankが提供する「お金の流れをもっと透明にするアプリとカードのサービス」です。
お金の流れを透明に、と謡うように、家計簿機能に重きを置いたサービスになっています。
B/43 | |
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サービス開始 | 2021/04 |
チャージ方法 | 現金/クレジットカード |
チャージ可能ブランド | Visa/Mastercard |
決済ブランド | Visa |
バーチャルカード | × |
リアルカード | ○ |
リアルカード発行手数料 | 900円 |
決済上限(1回) | 100万円 |
決済上限(月間) | なし |
残高上限 | 100万円 |
決済還元率 | 0% |
残高還元率 | 0% |
残高出金 | ○ |
個人間送金 | × |
共有口座 | ○ |
オートチャージ | ○ |
後払いチャージ | ○ |
使い捨てバーチャルカード | × |
3Dセキュア | ○ |
タッチ決済 | ○ |
サポートページ | https://support.b43.jp/hc/ja |
主な特徴
B/43自体はVANDLE CARDのサービスととてもよく似ています。
個人間送金機能を持たず、アプリ単体で決済履歴の見える化に特化したサービスです。
VANDLE CARDとの比較で言えば、ペア口座という2人で共有できる口座を持てることが特徴です。ペア口座では2人で共通の残高を共有し、専用のペアカードで決済することができます。
最大100人まで登録できるKyashの共有口座は個人口座のカードを共有し、設定によって引き落とし元を切り替えて決済しますが、B/43では専用のカードを持つので基本的な使い勝手としてはこちらのほうがよいでしょう。
B/43ではスケジュール設定型のオートチャージが個人口座/ペア口座それぞれに使えるため、ペア共有の口座に毎月3万円を入金してペアカードで共有の支出を管理する、などが可能です。
IDARE
IDARE(イデア)は株式会社Fivotが提供する「あなたの目標達成をサポートするスマート積立アプリ」です。
IDARE最大の特徴は、ウォレット残高に年率2.0%のボーナスが付くことで、単なる決済だけではなく、資産運用の側面も備えていることが特徴です。
IDARE | |
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サービス開始 | 2021/04 |
チャージ方法 | 現金/クレジットカード |
チャージ可能ブランド | Visa/Mastercard |
決済ブランド | Visa |
バーチャルカード | ○ |
リアルカード | ○ |
リアルカード発行手数料 | 900円 |
決済上限(1回) | 50万円 |
決済上限(月間) | 100万円 |
残高上限 | 100万円 |
決済還元率 | 0% |
残高還元率 | 2.0% |
残高出金 | × |
個人間送金 | ○ |
共有口座 | × |
オートチャージ | ○ |
後払いチャージ | × |
使い捨てバーチャルカード | × |
3Dセキュア | × |
タッチ決済 | ○ |
サポートページ | https://idare.zendesk.com/hc/ja |
主な特徴
先に触れた通り、IDAREではウォレット残高に対して年率2.0%のボーナスが付与されます。
ボーナスは月の平均残高に対して、毎月年率2.0%で付与されますが、月の入金額の20%までしか付与されないため、入金のなかった月には一切ボーナス付与されない点に注意が必要です。
従って、月平均50万円の残高を保有している場合には、毎月833円分のボーナスがつきますが、これが月入金額の20%以内である必要があるため、月5000円程度の入金が毎月必要になります。
2022年7月現在の話ですが、実はIDAREのカードはRevolutのチャージカードとして利用が可能です。
そのため、毎月の決済先が見つからなかったとしても、とりあえずRevolutへのチャージとして決済を行っておけば、安定的に月々の決済を確保することができます。(もちろん、最終的な決済先がなければRevolutに貯まる一方なので問題の先送りにしかなりませんが…)
また、IDAREのチャージ元にはKyashが利用可能であるため、Kyashからのチャージにすることによって0.2%までのKyash還元を受けることもできます。
ただし、上記はそれぞれ現時点での状況であるため、その他様々な経路と同様、事業者側に塞がれる可能性があるため、お得な経路だとして過信しすぎることは控えるべきでしょう。
このことを楽観的に考えれば、残高50万円をベースに、月5000円入金し、月5000円決済すれば20%近い還元が受けられることになりますが、IDARE口座から直接出金することはできないため、IDARE自体に何かあった際には残高ごと失うリスクがあります。
また、退会時にも残高返還はないため、IDAREを使う際には残高をきっちり使い切るところまで考える必要がある点は意識しておきましょう。
その他のプリペイドカードアプリ
今回はスマホアプリを中心に利用するモダンなサービスに着目してみましたが、他にもプリペイドカードとして使えるサービスはいくつかあります。
中でも、TOYOTA Walletはサービス開始当初1.5%の決済還元を備えていたため、他のサービスと絡めて高還元な仕組みを作る部品として注目を集めました。
その後、還元率が下がっていったことや、他サービスへのチャージが徐々に塞がれていったり還元対象外となったりすることで、当初の熱が落ち着いてきました。
こちらもトヨタグループにおけるファイナンスアプリを目指しているようで、MIXI M同様、これからの動向が気になるところです。
まとめ
今回は様々なモバイルプリペイドカードアプリの比較を行ってみました。
一昔前はVisaバーチャルカードとして利用できるVANDLE CARDとKyashくらいしかなかったところ、各アプリの機能拡充が進み、さらに競合アプリが増えるなど、多様化が進んできています。
当初はユーザ集めの側面もあり、大盤振る舞いな仕様で始まっていたりもしますが、徐々に制約がかかりながら、最終的にモバイルバンキング/モバイルウォレットとしての機能が洗練されてきました。
クレジットカードが持てる人にとってはあまり恩恵を感じない面もありますが、例えば自分が高校生だった場合、などを考えるとカード決済ができる価値も見えてくるため、これからのモバイル決済がどのようになっていくのか、こういったアプリ/サービス動向を注視していく価値はありそうです。