グリーン成長戦略に見る日本の基幹産業の行方

2020年12月25日、経済産業省から「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表されました。

これは2020年10月に日本が2050年のカーボンニュートラル達成を宣言したこととも絡みますが、超長期かつ超大規模の国家事業として、日本の基幹産業を占うものとなっていそうですので、その内容を読み解いてみたいと思います。

2050年カーボンニュートラル

まずはじめに、このグリーン成長戦略の前提となっている2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言ですが、このことをまず押さえておきましょう。

このカーボンニュートラルに向けた動きは突然始まったものではなく、1997年の京都議定書2015年のパリ協定などから続いている温室効果ガスを削減する目的を持つものです。
最近では特に将来の地球を見据えた、持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)やESGなんていう標語がキャッチーに語られていますが、いずれにせよ環境改善にアプローチする動きになっています。

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そんな環境への注目度が高まっている中で、特にカーボンニュートラルというのは、ガソリン車からEV車への移行などを通じ、2050年に日本として二酸化炭素(実質)ゼロを目指そうという意思の表れであり、それを印象づけるべく菅政権として改めて「2050年カーボンニュートラル」が宣言されています。

ちなみに、2050年時点で完全に二酸化炭素排出がゼロにするかというとそういう計画ではなく、植林などによる二酸化炭素吸収を増やし、日本として実質ゼロを目指すというのがより正確なゴールイメージです。

今回の公表に合わせ、経済産業省がカーボンニュートラルの全体像を次のイメージで示しています。

カーボンニュートラルの産業イメージ(経済産業省) より

エネルギー産業を中心として、いくつかの産業・分野ごとに様々なアプローチがありますので、ここからはそれを詳しくみていきましょう。

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グリーン成長戦略

それでは、今回の本題であるグリーン成長戦略をみてみます。

主に2つの資料がありますが、資料1が内容を端的にまとめたプレゼン資料、資料2がその元となっている本文という関係です。

今回の記事では、資料1(プレゼン資料)の内容をベースとし、適宜資料2(本文)のコメントを引用しながら内容を読み解いていきたいと思います。

グリーン成長戦略のねらい

まず、グリーン成長戦略の位置付けを確認してみましょう。
位置付けについては、冒頭で次のように触れられています。

(1)カーボンニュートラルとグリーン成長戦略の関係
2020年10月、日本は、「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。温暖化への対応を、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会と捉える時代に突入したのである。従来の発想を転換し、積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長に繋がっていく。こうした「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策が、グリーン成長戦略である。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(経済産業省) より

こうした社会情勢の中で、今回改めてグリーン成長戦略を打ち出す意義について、次のように書かれています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.2(経済産業省) より

前半の2点は前提の認識を述べたものですが、後半の2点が公表の意義に関するものです。
つまり、

  • 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、実行するのは並大抵の努力ではできない
  • その実現に向け、国として実現の見通しを示し、民間企業の挑戦を促す必要がある

ということです。

グリーン成長戦略では14の分野が規定されていますが、「各分野それぞれで支援したいと思っているし、こういう展望だと思うので官民協力していこうね」というのが主旨になっています。

基本的な考え方

そういった主旨のグリーン成長戦略ですが、2050年カーボンニュートラルという目標のため、次のような基本路線が描かれています。

端的に、どのような内訳、およびロードマップで2050年カーボンニュートラルを目指すかということについてはこのスライドがわかりやすいです。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.6(経済産業省) より

まず、大分類として二酸化炭素の発生源を電力由来と非電力由来に分け、それぞれで対策を講じることになります。

まず、電力領域に関しては、再生エネルギーや水素・原子力の活用、および火力における低炭素化などが想定されています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.3(経済産業省) より

一方、非電力に関してはさらに「運輸」「産業」「民生」の3分野に注目し、運輸においてはEV化、産業においては低炭素化など、分野ごとにさらに方策を詰めていきます。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.4(経済産業省) より

2050年ではそもそもの電力需要が30-50%増加するという予測があるため、電源確保はもちろんのこと、社会全体で貴重な電力を効率的に使えるよう、蓄電技術の発展やスマートグリッドの社会的実装などが想定されています。

グリーン成長戦略においては、まさに社会インフラへの挑戦ということで現実世界の大規模開発が注目されますが、スマートグリッドなどそれを両輪で支えるデジタルインフラも同様に注目されることになるようです。

カーボンニュートラル税制

こうしたカーボンニュートラルに向けた動きは、国だけでなく民間も足並みを揃えることで、より強力なものとなります。
国がその協力を求める端的な方法として、税制コントロールがありますが、このグリーン成長戦略においてもカーボンニュートラル税制の創設が決まっています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.10(経済産業省) より

中でも、特に名指しで述べられている

  • 脱炭素化設備
    • 化合物パワー半導体、燃料電池、リチウムイオン電池、洋上風力発電設備
  • その他脱炭素化に資する設備
    • 生産設備やエネルギー管理設備の刷新による炭素生産性の向上

に注目ですね。

この他、国が民間の協力に働きかける観点では、規制緩和や国手動での技術の標準化、公共事業としての投資活動などもあります。

重要分野における実行計画

さて、グリーン成長戦略の本体となる具体的な注力分野については、以下の3産業14分野が挙げられています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.16(経済産業省) より

全分野に言及しているとかなりの長さになるので、各産業ごとに気になったものをいくつか見ていきたいと思います。詳しい内容や、言及のなかったものについてはぜひ原文を見てみてください。

エネルギー産業関連

まずはエネルギー関連産業です。
エネルギー関連産業は基準となる2018年時点において、グリーン成長戦略で言及される分野のうち最も多い約4.5億トンの二酸化炭素を排出したと言われていますが、増える電力需要に応えながら、2030年、2050年に向けて着実に技術開発を進めていく必要があります。

エネルギー関連産業
  • 洋上風力産業(★)
  • 燃料アンモニア産業
  • 水素産業
  • 原子力産業(★)

洋上風力産業

基本的な考え方でも紹介したように、カーボンニュートラルに向けては再生エネルギーの積極的な活用が大前提となっています。
その再生エネルギーとして有力視されているのがこの洋上風力発電で、海に囲まれた日本だからこそ大きなポテンシャルを秘めていると言われます。

洋上風力発電はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が研究を進めていますが、千葉県銚子沖や福岡県北九州沖で実証実験が行われています。

グリーン成長戦略としては以下のページで整理されていますが、これから本格展開がなされているところです。国内の電力需要に応えることはもちろん、今後さらに成長するであろう世界の洋上風力発電マーケットに対する売り込みという点でも、継続的な技術開発が必要だと書かれています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.18(経済産業省) より
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.19(経済産業省) より

2枚目の工程表で導入拡大期を表すオレンジが多く見られ、2020年代から積極的な展開が見込まれています。
大雑把に言ってしまえば、洋上に100mクラスの風力発電機をガンガン立てていくという計画になっていますので、多くの製造関連産業が関係することになります。先述のガイドブックにおいて、主要メーカーに以下のような企業名が挙げられていますので、これらの企業の存在感が増していくことでしょう。

着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)p.3(NEDO) より

なお、現在実証実験が進んでいるのは海底に固定する、着床式洋上風力発電ですが、次世代技術としては着床の必要がない浮体式洋上風力発電の研究も2030年ごろの実用化を目処に進められているようです。

また、こういった風力発電機の製造・研究以外でもオーガナイザーとして丸紅三菱商事などの商社、レノバのような再生エネルギーのスタートアップ企業も重要なプレイヤーとなっています。

原子力産業

東日本大震災に伴う福島第一原発の事故を経た今でも、原子力発電はカーボンニュートラルに向けた有力な手段の一つ、かつ数少ない実用段階にある技術と位置付けられています。

正直なところ、商業的に優位であってもリスクの程度が重すぎる観点でなんとも言えないところではありますが、第4世代原子炉である高温ガス炉の研究や、究極のクリーンエネルギーといわれる核融合炉の研究が記載されています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.27(経済産業省) より
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.28(経済産業省) より

先程の洋上風力発電に比べると、工程表における青色の開発・実証フェーズが目に見えて多いことがわかるでしょう。核融合に関しては2050年時点でもまだ導入拡大フェーズに入っていないので、22世紀までに実用化されればいいほう、という気がします。

このことと、先程の洋上風力発電を合わせれば、2050年カーボンニュートラルを成し遂げつつ電力需要に応えるには、新たな電源である洋上風力発電が非常に重要であることがわかります。

輸送・製造関連産業

続いては輸送・製造関連産業です。

輸送・製造関連産業
  • 自動車・蓄電池産業(★)
  • 半導体・情報通信産業
  • 船舶産業
  • 物流・人流・土木インフラ産業(★)
  • 食料・農林水産業
  • 航空機産業(★)
  • カーボンリサイクル産業

自動車・蓄電池産業

私たち一般消費者の目から見て、最もカーボンニュートラルとしてわかりやすいのはこの自動車関連でしょう。ディーゼル規制などで既に自動車の二酸化炭素排出に注目はありましたが、2030年のガソリン車販売禁止がニュースになるなど、テスラの隆盛と合わせて次のステージへの移行がいよいよ始まったように思います。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.30(経済産業省) より
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.31(経済産業省) より

既に一般目線でも話題になっているにも関わらず、なんとも不思議な工程表に見えます。
すでに導入拡大フェーズが見える一方で、ガソリン車が販売禁止となる2030年以降の計画が明確になってない状態です。

自動車産業は戦後、日本の基幹産業として「日本人の10人に1人は自動車関連産業に従事している」とまで言われるほど裾野の大きい産業であり、そのこともありトヨタが2030年という近い将来を名指しすることに対して強い危機感を表明していましたが、そうしたところも関係しているのかも知れません。

しかし、2030年ごろからガソリン車の販売が徐々に禁止されていくことは日本だけでなく世界的な流れですので、国内産業の動向とは別に、先進国として表明せざるを得ないものだったのかもしれません。自動車の駆動系シェアについては、いくつかの読みがありますが、概ね2040年頃にEVやFCVなどのカーボンニュートラル車が販売台数で逆転する見通しとなっています。

自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか 第6章(PwC Japan) より

カーボンニュートラルを目指すことと、次なるエネルギーとして電力を採用することはもはや不可分なものとなっており、それだけにエネルギー源となるバッテリーや駆動系としてのモーター需要は今後一層高まっていくことになりそうですが、これからの動きに注目です。

物流・人流・土木インフラ産業

この分野は特に記載が多いのでスライドを割愛(載せても読みづらい)しますが、この分野では

  1. カーボンニュートラルポートの形成
  2. スマート交通の導入
  3. グリーン物流の促進
  4. インフラ・都市空間のゼロエミッション化
  5. 建設現場のカーボンニュートラル化

の5つが活動軸となっています。
以下が各活動軸に対する工程表ですが、全体的なカラーリングに注目してください。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.42(経済産業省) より

全体的に2030年頃まで開発・実証フェーズが続きますが、スマート交通については既にFCVバスなどが導入されつつあり、唯一導入拡大フェーズが目立ちます。

公共交通機関のカーボンニュートラル化にあたっては、最低限都市部でのエネルギー網整備を進める必要がありますが、将来的には個人レベルでのEVやFCV普及を狙う必要があるため、このように公共交通インフラを先行させることで、効果的にエネルギー網を整備することができます。
第1フェーズでは都市内公共交通機関(グリーン交通)、第2フェーズでは都市間輸送網(グリーン物流)へと拡げていくことで、個人でも安心して利用できるエネルギー網が整備されていくものと思います。

航空機産業

2020年のコロナ禍の最中、10年以上にわたって開発が続けられてきた三菱重工の小型ジェット機、MRJの開発が凍結されたことは記憶に新しいですが、カーボンニュートラルに向けて航空機の駆動系についても次世代への模索が続きます。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.49(経済産業省) より

自動車の電動化と同じく、航空機の電動化も見据えられています。
航空機には自動車以上の出力が必要であるため、2030年時点でもまだ開発・実証フェーズが続いていますが、2040年ごろから徐々に導入拡大フェーズに移行していくとみられています。

この手の大型動力は三菱重工や川崎重工といった重電メーカーが担っていますが、国防や宇宙開発といった領域にも近く、今後どのような発展を見せるのか個人的に注目している領域です。

家庭・オフィス関連産業

最後に、家庭・オフィス関連産業です。
産業区分として「家庭」は入るくらいですので、このあたりは私たちの生活にも近しい領域となっています。

家庭・オフィス関連産業
  • 住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業(★)
  • 資源循環関連産業
  • ライフスタイル関連産業

住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業

この家庭・オフィス関連産業の中でも、最も私たちに近しいと思われるのがこの分野で、概ねスマートハウスに関係する内容となっています。

特に、カーボンニュートラルに向けてはエネルギーの有効活用という観点があり、家庭用蓄電池やスマートメーターなど、各家庭でのエネルギーマネジメントは今後一層ハウスメーカーが力を入れていく領域になりそうです。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 p.55(経済産業省) より

この中に「木造建築物の普及拡大」というものがありますが、カーボンニュートラルが「実質ゼロ」を目指すものであるため、豊かな山林との両立が欠かせません。

一方で、美しい山林の維持には林業の存在が重要であり、林業は木材を利用する産業に支えられるため、こういった木造建築のニーズも重要になります。
また、こうした木材は燃やされるまで炭素を排出しないため、炭素固定の考え方からしても木造建造物は重要な役割を果たすことになります。

実際、住友林業が2041年を目標に高さ350mの木造高層ビルを構想(W350計画)しているなど、木造建築の技術開発が今なお進められています。

街を森にかえる環境木化都市の実現へ木造超高層建築の開発構想 W350計画始動(住友林業) より
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カーボンニュートラルの広がり

今回の発表にあたり、冒頭で示したカーボンニュートラルの産業イメージの他に、以下の資料も公開されています。

カーボンニュートラルの広がり(経済産業省) より

産業という観点ではまた別に、日本という国全体でどういった繋がりが生まれていくかという観点でまとめられたイラストです。

これまで、日本の基幹産業として自動車が強くイメージされていましたが、EV化による部品点数の削減は、自動車産業の裾野を狭める側面ももっていました。
次なるものづくりとして航空機を据える動きもあったものの、MRJの凍結でなかなか明るいニュースがない日本の基幹産業像でしたが、今回のグリーン成長戦略において様々な産業を巻き込んだ計画が表明され、この実現に向かう様々な動きが確認できました。

次世代エネルギーの開発など、これまで見てきたように、何気なく記載されている単語1つ1つに2050年を見据える大きな計画が広がっているため、これからの社会を考える上では、このイラストはとても意味深いものを伝えているように思います。

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まとめ

ニュースを見ていてふと耳にしたグリーン成長戦略ですが、公表された資料を見る限り、その主旨を読み解くだけでもずいぶん壮大なスケールで描かれたものであることがわかります。
それは日本の様々な産業に影響するだけでなく、2030年や2050年といった時間の広がりや、アジアや世界への広がりを感じさせるものとなっていました。

冒頭でも触れたように、この流れは世界でもSDGsというキーワードとともに強く意識されているものですので、投資などでこれからの時流を読む際にも避けては通れないものとなっているでしょう。

スケールの大きな計画であるため、1年や2年で大きく変わることはありませんが、こうしたことを頭に入れておくと短期的な上がり下がりとは別に、長期的な潮流のようなものを土台に据えることができるため、最初のインプットには苦労しますが、インプットして損のない情報だと思いました。

参考資料

本文では紹介しきれなかった、その他官公庁の資料です。