書評: 「原因」と「結果」の法則

「聖書の次に読まれている本」とも言われる、ジェームズ・アレンの本。
100年以上前の本であり、そこまで分厚くないにも関わらず、未だに代表的な自己啓発書として名高いこの本を読んでみました。

オススメ対象者

この本はまさに正統派の自己啓発書なので、何かに取り組む具体的なテクニックを扱ったものではありません。何かを上手くやりたい、物事を上手く進めたいという人には特段役に立つところがない本でしょう。

しかし、この本が主たる話題としている「自分こそが自分の人生の創り手である」ということは、今直面している問題だけでなく、今後ずっとついてまわる「心の持ちよう」についてシンプルな気付きを与えてくれるかもしれません。

そうした意味で、この本をオススメできるのは、

  • これからどうしていこうか、ぼんやりと悩んでいる人
  • 現時点でネガティブな思いを強く抱いていない人

どうして2点目でネガティブな思いを抱いている人を除外しているかは本文で補足しますが、あくまでフラットな気持ち、あるいは前向きな気持ちで読める方にはぜひオススメしたい自己啓発書です。

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概要

著者のジェームズ・アレンは、この本をはじめ19冊の本を出版したとされていますが、本業が物書きというわけではありません。

貧しい幼少時代を送りつつ、キリスト教やその他さまざまな学問や書物の影響を受け、考えることの重要さを認識するようになり、そうした考えを残そうと38歳のときに執筆活動をはじめたと言われています。
中でも、この本がその1冊目となっていますが、ジェームズ・アレンの主軸となる考えが詰まっており、代表的な著作とされています。
A5サイズで約100ページと、自己啓発書としてはかなりコンパクトにまとまっています。

それでは、いつものように内容をかいつまんで感想を述べていきます。

AS A MAN THINKETH(原題)

内容に入る前に、少しタイトルに触れておきます。
この本は当然原著が英語であるため、今回紹介する本も日本語に訳した本になっています。

その際、タイトルが『「原因」と「結果」の法則』やそれに類するものになっているものが多いのですが、原題としては『AS A MAN THINKETH』となっています。

THINKETHは古典英語における三単現なので、今風に言うなら「AS A MAN THINKS」というものであり、直訳で「考える人として」みたいなそんな意味です。
直訳ではない素直な翻訳であっても「考えるままに」とかそういう、「人」と「考えること」の結びつきを示唆するようなものになっていることが多いです。

そうした意味深な原題がありつつも、邦題がキャッチーになっているのは、原題のままだと手に取られにくいだろうというマーケティング上の都合があったんでしょうね。
あ、誤解のないように補足すると、『「原因」と「結果」の法則』に類する表現は本文中に何度も出てきますので、マーケティング先行でまったく脈絡のない邦題に差し替えているわけではないです。

まぁ確かに、「考えるままに」っていうタイトルだったら、自己啓発書というよりはエッセイというような感じがしてしまうので、本の位置づけを考えると妥当なネーミングだと思いました。

説明というより提案

本の冒頭、ジェームズ・アレンによるまえがきに、こんな一節があります。

私がこの本を通じて行っていることは説明というよりも提案であり、その目的はできるだけ多くの人たちが、みずからの手で、「自分こそが自分の人生の創り手である」という真実に気付くのをうながすことにあります。

はじめに より

この本の内容はあくまで自分がそう考えたということをまとめたものであり、それを押しつけるものではないという姿勢をはっきりさせています。この内容が真実であると力説するわけではなく、読者への提案を通じて、何か得るものがあると嬉しいというスタンスです。

このあたりは自分が得た考えを他者に共有したい、天から得られたものを返したいという、宗教観からくる思いがあるのかもしれません。

思いと人格

この本では「思い」という言葉が、「自分が考えること」という意味で出てきますが、そうした思いについてアレンは次のように述べています。

「人は誰も、内側で考えているとおりの人間である」という古来の金言は、私たちの人格のみならず、人生全般にあてはまる言葉です。私たちは、文字どおり、自分が考えているとおりの人生を生きているのです。なかでも人格は、私たちがめぐらしているあらゆる思いの、完璧な総和です。

思いと人格 より

行いは思いの花であり、喜びや悲しみはその果実です。そうやって私たち人間は、自分自身が育てる、甘い、あるいは苦い果実を収穫し続けるのです。

思いと人格 より

特に、「人格は思いの総和である」ということはアレンの考えとしてよく引用されます。
人格がなんであるかという厳密な話はあるかもしれませんが、行動や受け答えはもちろん、わずかな所作や表情を含めてその人の考えによって生み出されるものだとするなら、確かに人格が考えの総和であるというのはその通りかもしれません。

そういった人格によってさまざまな行動が生まれ、それによってさまざまな刺激が変化することを合わせ、私たちはそうした人生の果実を収穫しているというわけです。

原因と結果の法則

こうしたことから、アレンは次のように続けています。

私たちの人生は、ある確かな法則にしたがって創られています。私たちがどんな策略をもちいようと、その法則を変えることはできません。「原因と結果の法則」は、目に見える物質の世界においても、目に見えない心の世界においても、つねに絶対であり、ゆらぐことがないのです。

思いと人格 より

「人間は思いの主人であり、人格の制作者であり、環境と運命の設計者である」

思いと人格 より

ここで、邦題に使われている「原因と結果の法則」が登場しています。
つまり、原因は思いであり、結果はそうした思いから生み出される人生の果実であるというわけです。

そして、だからこそ、「そうした思いをコントロールするのはほかならぬ自分である」と気付くことが大事であると提案しているわけですね。このあたりから『AS A MAN THINKETH』の原題が意味するところがにじみ出てきます。

ビジョンを描く

この本で終始「思い」の重要性を説くアレンは、そのことを念押しするように本の終盤でビジョンの重要性を改めて述べています。

理想を抱くことです。そのビジョンを見つづけることです。あなたの心を最高にワクワクさせるもの、あなたの心に美しく響くもの、あなたが心から愛することができるものを、しっかりと胸に抱くことです。そのなかから、あらゆる喜びに満ちた状況、あらゆる天国のような環境が生まれてきます。もしあなたがそのビジョンを見つづけたならば、あなたの世界はやがてその上に築かれることになります。

ビジョン より

このあたりはまさに引き寄せの法則に似ていますね。
しかし、後半の「あらゆる喜びに満ちた状況、あらゆる天国のような環境が生まれてきます。」あたりはかなりスピリチュアルに感じられるかもしれません。

理想を抱き、ビジョンを見つづけることで、思いが信念へと変わり、疑いようがないものになっていくという話でもあると思いますが、このあたりはこうやって独立して引用するとびっくりしますね。
ぜひ前後を含めて一連のアレンの言葉を読んでみてください。

環境は思いの結果か?

全体を通じてとてもいい本だと思ったところですが、少し注意しなければならないと思ったのが「環境」に対する認識でした。少し長めに引用します。

私たちは、自分の環境を直接はコントロールできないかもしれません。でも、自分の思いは完璧にコントロールできます。よって、私たちは間接的に、しかし明らかに、自分の環境をコントロールすることができます。
(略)
もし私たちが、意地悪な思いを捨て去ったのなら、そのときから世界中が私たちに優しく接し、私たちを援助しようとしはじめることになります。もし私たちが、病的で弱々しい思いを放棄したならば、私たちの強い決意を援助すべく、あらゆる好機が湧き上がってくるでしょう。もし、私たちが正しい思いのみをめぐらしつづけたならば、たとえいかなる不運であっても、私たちに悲しみや辱めを与えることはできなくなります。
あなたの環境は、あなた自身の心を映す万華鏡です。その鏡のなかで刻一刻と変化する多様な色彩のコンビネーションは、動くことをやめないあなたの思いの数々が、絶妙に投影されたものにほかならないのです。

思いと環境 より

この部分を見ても、話の筋はやはり一貫しています。「思い」が環境に作用するのだから、環境をコントロールでき、だからこそ環境は心を映す万華鏡だと言っています。

確かにこの本全体のストーリーと併せて、言わんとすることはわからないでもないのですが、先日見かけたこの記事と併せて、少し主張が強すぎるように感じました。

学校や職場への不適応などでも同じことが言える。学校に行くのがつらい、出勤したくないという苦痛はたしかに心の問題だが、その原因が学校でのいじめだったり、職場の労働環境が劣悪であることだったりしたら、まず解決しなければいけないのはいじめや劣悪な労働環境という環境の問題であって、それをそのままにして苦痛だけを軽減するのが心のケアであるならば、心のケアはひどい状況をがまんさせるための存在、劣悪な環境の補完装置でしかなくなってしまう。

それは心の問題ではない より

この記事でも指摘しているのは「病は気から」と言うことだけが解決策ではないということです。
確かに、気の持ちようが外部に悪く作用して、現在の環境を生んでいるケースは当然考えられますが、だからと言って「全ての原因が自分にあるのだ」と思って自責の念に駆られるのもまた正しくないものです。

このあたりがこの本のオススメから

  • 現時点でネガティブな思いを強く抱いていない人

と、ネガティブな人を除いた理由です。
ある程度であれば、「そうか、自分の思い次第で環境を変えられるのか!」と気付くことはプラスになると思いますが、人によっては「自分の思いがよくないから、今が良くないのか…」と思い悩んでしまうかもしれないので、このあたりはほどほどに読むのがいいでしょう。

自己啓発書の原点

この本で述べられる、アレンの「思い」に対する帰結はかなり強力なもので、一説にはこのことがいわゆる引き寄せの法則であったり、「思考は現実化する」で知られる成功哲学の元になったとも言われています。
確かに、主旨として言っていることは基本的に同様のことですので、この本が「自己啓発書の原点」と言われるのも納得がいきます。

私もそうした自己啓発書は色々と読んだりしていますが、最近では分厚い本を丸一冊読んでも、「あの本と本質的には同じことを言っていそうだな」と感じることが多くなってきました。
もちろん、そんな中で読んだこの本も例外ではなく、至る所にどこかで聞いたようなフレーズが出てきています。

しかし、むしろこれは全くの逆で、これまで読んだ本が「ジェームズ・アレンの言葉を言い換えていただけ」なのかもしれません。
比較される自己啓発書の中でこの本が最も古く、分量も少ないことから、「全ての自己啓発書はアレンの言葉を補い、実例を付け加えただけのもの」とまで言う人もいるようです。

色々と本を読んできて、もうそこまで強く自己啓発を望んでいるわけではないものの、何かの刺激になればと思って未だにちょいちょい本を読んでいますが、もうこの本1冊をじっくり何度も愛読するくらいが自己啓発としてはちょうどいいのかもと思います。この本が自己啓発書の原点だとするならなおさらですね。

それくらい、個人的にはすっと入ってくる、大事にしたいと思える1冊でした。

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まとめ

少し環境についての注意点はあるものの、総じてとても好きな本でした。

確かにこの本を悪く言えばアンロジカルでスピリチュアルな本だと思いますが、1冊を選んで愛読するなら、完全にロジカルで1度読めばわかる本よりも、こういった一度で汲みきれない本のほうがちょうどいいのかもしれません。

冒頭でも触れた通り、100ページもない本ですので、何か気付いたタイミングですっと読み切れてしまうような分量です。これからもこの本を大事にしながら、自分の中でこの本の意味が変わったり、新しい発見があることを楽しみにしていきたいと思います。

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