本日、新型コロナウイルス感染症の全国的かつ急速なまん延による国民生活および国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある事態が発生したとして、緊急事態宣言が発出されました。
そのことを説明した首相会見はテレビ等でも大きく報道された通りですが、その中でも触れられた「108兆円の経済対策」については、本日の閣議決定を受け、その主旨が内閣府から公表されています。
今回はその内容から今後の動きについての情報を得つつ、このような国難に対する経済対策のアプローチを紐解いてみたいと思います。
Contents
対策の決定に向けて
2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の問題に対する緊急経済対策として、以下が閣議決定されました。
上記の資料は、経済対策として内閣府の経済対策等のページから4月7日付でリンクされています。
この中身がいわゆる108兆円の経済対策の考え方と具体的施策を示しており、この内容の執行について閣議決定がなされたというわけです。
閣議決定
今回を含め、ニュースなどで「閣議決定」という言葉を聞いたりしますが、意味合い的には、三権分立を掲げる日本の行政権を担う内閣の決定ということで、「この内容に従って各省庁を動かす」ことを決定することを指しています。
従って、今回緊急経済対策が閣議決定されたことにより、この内容によって厚生労働省をはじめ、その他関係省庁を本格的に動かしていくことが日本国として決定されたことになります。
補正予算
また、当然この一連の活動については令和2年度予算で予定されたものではありませんから、今回の閣議決定を実行していくために必要な予算を新たに編成していくことになります。
今回のコロナ対応は令和2年度に実行されることになりますが、一般会計額で過去最大となる102兆6580億円を計上した令和2年度予算は、ちょうど先日、3月27日に国会を通過し、成立しました。
この予算成立にあたっても既に必要性が言及されていますが、当初予定した年度予算を超えて支出する場合には、補正予算が編成されます。今回もこの閣議決定を受けて、新たな補正予算が4月中の成立に向けて目下協議されているところです。
なお、今回の補正予算の検討を含めた令和2年度予算動向については、以下に2019年7月の概算要求から順にまとまっています。
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策
それでは、対策の中身を具体的にみてみましょう。
中身としては、43ページで(この規模のお金を扱う文書としては)そこまで長いというものではありません。
とはいえ、この文書はもちろんのこと、中身である各種施策を急ピッチで仕上げられたであろう関係省庁の職員の皆さんには本当に頭が下がります。
まず、最上段の目次部分を引用します。
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策
~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~令和2年4月7日
第1章 経済の現状認識と本経済対策の考え方
Ⅰ.経済の現状認識
Ⅱ.経済対策の考え方第2章 取り組む施策
「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」について(別紙) より
Ⅰ.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
Ⅱ.雇用の維持と事業の継続
Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復
Ⅳ.強靱な経済構造の構築
Ⅴ.今後への備え
このように、第1章で対策の考え方を大きく述べ、第2章でその考えに立脚する具体的な対策を述べる構成となっています。
詳しくは後述しますが、具体的な施策については「5本の柱」が掲げられており、それがⅠ~Ⅴの節に該当します。
第1章 経済の現状認識と本経済対策の考え方
具体期な対策内容に言及する前に、対策を打つべきとする現状を、政府としてどのように認識しているか、そしてその認識に基づいてどのような対策を講じるべきかについて、1~6ページを使って述べています。
経済の現状認識
いくつか抜粋しますが、詳しい言及は本文を参照してください。
<新型コロナウイルス感染症の状況>
新型コロナウイルス感染症(以下、本章において「感染症」という。)については、東京をはじめとして都市部を中心に感染者が急増し、感染経路が不明な感染者も増加している。さらに、世界的に患者数と死亡者数の急激な増加が見られ、国内で発見される輸入症例も増加している。
現状は、ぎりぎり持ちこたえている状況にあるが、少しでも気を緩めれば、いつ急拡大してもおかしくない、まさに「瀬戸際」が継続している状況にある。
こうした状況から、政府として、国民の生命を守るため、本日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を行うとともに、「基本的対処方針」を改定したところであり、国や地方公共団体、医療関係者、専門家、事業者を含む国民が一丸となって、新型コロナウイルス感染症対策をさらに強力に推進していく。
第1章 Ⅰ.経済の現状認識 より
<経済の現状>
感染症は内外経済に甚大な影響をもたらしており、世界経済は、戦後最大とも言うべき危機に直面している。
我が国経済は、感染症拡大の影響により大幅に下押しされており、国難とも言うべき厳しい状況に置かれている。回復を支えてきた内需のうち、個人消費はサービスを中心に、イベントの中止や自粛・外出控えにより、消費者マインドの悪化も相まって停滞に陥っている。また、設備投資は、感染症拡大以前から中国経済の減速の影響等により横ばい傾向となる中で、感染症の影響による業況悪化、そして先が見えないという不確実性の大きさが企業の投資意欲を萎縮させる要因となっている。
第1章 Ⅰ.経済の現状認識 より
こうした非常に厳しい感染症状況の下、世界経済はもとより、日本経済にも既に甚大な影響を与えており、将来に向けた投資意欲の萎縮も発生しているとの認識が述べられています。
経済対策の考え方
そうした中で、経済対策の考え方については次のように述べています。
こうした中で、これまで政府としては、感染拡大を防止し、早期に収束させるとともに、昨年度末に先立ち、雇用の維持、事業の継続、そして生活の下支えを当面、最優先に全力で取り組む観点から、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」の第1弾及び第2弾 、さらには「生活不安に対応するための緊急措置」(以下、総称して「緊急対応策」という。)と、金融措置を含め総額2兆円規模の緊急に対応すべき対策を臨機応変に講じ、直ちに実行してきている。
その上で、上記の経済認識に立ち、海外発の下方リスクに対応する等の目的で策定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(以下「総合経済対策」という。)に加えて、G20 首脳会議における「共同戦線を張る」との合意に基づく国際協調の下、危機克服に向け、新たに補正予算を編成し、前例にとらわれることなく、財政・金融・税制といったあらゆる政策手段を総動員することにより、思い切った規模の本経済対策を策定し、可及的速やかに実行に移す。
第1章 Ⅰ.経済の現状認識 より
この考えを受け、具体的には「2つのフェーズ」「5本の柱」によって対策を行うとされています。
- 2つのフェーズ
- 緊急支援フェーズ
- 感染症拡大の収束に目処がつくまで
- 事態の早期収束に強力に取り組む
- その後の力強い回復の基盤を築くためにも、雇用と事業の生活を守り抜く段階
- V字回復フェーズ
- 収束後の反転攻勢に向けた需要喚起と社会変革の推進
- 観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテイメント事業等大幅に落ち込んだ消費の喚起
- デジタル化・リモート化など未来を先取りした投資の喚起
- 緊急支援フェーズ
- 5本の柱
- 感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
- 雇用の維持と事業の継続のための支援の更なる強化
- 官民を挙げた経済活動の回復
- 強靱な経済構造の構築
- 今後への備え
緊急事態宣言に基づく自粛要請などは、事態の早期収束をねらう緊急支援フェーズの施策の1つであり、それと並んで、雇用と事業を守り抜くことが直近では実行されることになると読み取れます。
また、今回の考え方には事態収束後の回復期についても言及されており、V字回復フェーズとして消費や投資の喚起が織り込まれているようですね。
5本の柱については、第2章でより詳細に述べられるため後述します。
こうした認識、こうした考え方によって関係省庁に対策検討が指示され、第2章の具体的施策が編纂されたものと推察します。
第2章 取り組む施策
それでは、第1章の認識と考えに立脚した具体的な施策について、構成の元となる5本の柱ごとに触れていきます。
Ⅰ.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
1つ目の柱は、緊急支援フェーズにおける事態収束に向けた施策です。
本文では施策内容と、そのねらいについてより詳細に記載されていますが、大筋がつかめる程度に施策を箇条書きします。
- マスク・消毒液等の確保
- 検査体制の強化と感染の早期発見
- 医療提供体制の強化
- 治療薬・ワクチンの開発加速
- 帰国者等の受入れ体制の強化
- 情報発信の充実
- 感染国等への緊急支援に対する拠出等の国際協力
- 学校の臨時休業等を円滑に進めるための環境整備
という8つが事態収束に向けた取り組みとして挙げられています。
ほとんどの施策が医療現場を支えるものとして厚生労働省主管のものとなっていますが、総務省の広報であったり、外務省の海外連携であったりが絡んでいます。
特に記載量が最も多かったのが、「3. 医療提供体制の強化」でした。
危機意識の高い医療崩壊を起こさせないため、人的・物的リソースの支援が述べられています。
技術進歩等を背景に解禁されたオンライン診療についても、「初診時は対面」とする原則を時限的に緩和し、オンライン服薬指導の緩和とともに、受診負荷の低減策が盛り込まれています。
また、「4. 治療薬・ワクチンの開発加速」については、既に名指し報道を受けているアビガンやフサンにも具体的に言及しており、臨床研究の拡大と生産体制の強化が述べられています。
Ⅱ.雇用の維持と事業の継続
続いて、こちらも緊急支援フェーズにおける経済支援策です。
- 雇用の維持
- 資金繰り対策
- 事業継続に困っている中小・小規模事業者等への支援
- 生活に困っている世帯や個人への支援
- 税制措置
こちらは主としてお金の話ですので、対法人という意味では経済産業省や農林水産省、金融政策としては金融庁が主に絡んでいます。
また、一般的なイメージとは異なるかも知れませんが、雇用の確保といった面ではこれまた厚生労働省が主管官庁として登場しています。
この観点では、ニュースでも大きく取り上げられた「30万円の給付」もここに含まれますが、施策の大部分は「企業の、特に個人事業主を含む中小事業者の事業継続支援」に割かれています。
今回の対策における基本的なスタンスとしては、収入の維持については各企業の努力に対して雇用調整助成金を強化し、資金繰り支援とともに企業と労働者を守るというものです。
それでもなお失業などで、収入に重大な影響があった場合には、例の30万円で救済するという話ですね。
個人レベルの感覚ではとにかく30万円くれよという話かもしれませんが、企業が倒れてしまうと労働者の30万円以上の損失が発生してしまうので、「そもそも企業を存続させる」ことに強い意思をもって施策が組まれているように感じます。
ただ、「30万円もらえると思ってたらもらえない」という観点から、もらえなかった方々に余計なストレスを与えてしまった感はあるため、変に刺激することなく後から高所得者課税で揃うようにしておけばよかったのになと個人的に思いました。
Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復
ここからが、いわゆるV字回復フェーズの施策になります。
既に、報道においてGo Toキャンペーンという収束後の消費喚起策が言及されていたりしますが、その詳細がここに記載されています。
- 観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業等に対する支援
- 地域経済の活性化
ポイントとしてはこの2点ですが、現状認識の中でも名指して影響が大きいとされた「観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテイメント事業等」への支援が1点目、各地域において落ち込んだ地域経済への、地域ごとの柔軟な支援を可能にする「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)」の創設に触れているのが2点目となります。
この消費喚起の観点では、収入補償とは異なり所得水準に関係なく広く給付する考えもありだと思うので、ここの喚起施策については次なる注目ポイントだと思います。
また、ここでは地域経済の活性化の側面で、早期に自粛が進行していった文化芸術やスポーツについての支援も以下のように述べられています。
また、人々の心を癒し、明日への希望を与え、社会の基盤をなす文化芸術と、心身の健康につながり、夢と感動、勇気を与えるスポーツは、いずれも豊かで潤いのある生活に極めて重要な存在である。各地で中止・延期等を余儀なくされた文化芸術・スポーツ活動に対する関心と熱意を盛り上げるべく、事業継続や生活維持に係る支援のほか、新型コロナウイルス感染症対策を含め活動再開に向けた十分な支援を行い、各地域で多種多様な文化芸術、スポーツ体験の機会の創出を通じて、地域の活気を取り戻す。
第2章 Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復 より
確かに、「不要不急」なものとして、先んじて自粛の進んだ両分野ではありますが、言及にある通り、豊かな生活のためには欠かせない存在ですので、1日も早く事態収束を果たし、これらの活動を再び楽しめるようになってほしいですね。
Ⅳ.強靱な経済構造の構築
こちらもフェーズとしてはV字回復フェーズに属しますが、意味合い的には「元より強い国を構築する」ことを目指すものです。
感染症の拡大の影響により寸断し、ダメージを受けたサプライチェーンについて、経済安全保障の観点から、生産拠点の国内回帰や多元化を強力に支援するとともに、事態収束後に再び継続的に外需の取込みを図るべく、海外展開企業の事業の円滑化や農林水産物・食品の輸出力の維持・強化に取り組む。また、今回の事態の中で進んだ、あるいはニーズが顕在化したテレワークや遠隔教育、遠隔診療・服薬指導等リモート化の取組を加速し、我が国のデジタル・トランスフォーメーションを一気に進めるとともに、脱炭素社会への移行も推進する。こうした取組を通じて、将来の感染症に対して強靱な経済構造を構築し、中長期的に持続的な成長軌道を確実なものとするとともに、公共投資の早期執行により景気の下支えにも万全を期す。
第2章 Ⅳ.強靭な経済構造の構築 より
これを受け、以下のポイントが掲げられています。
- サプライチェーン改革
- 海外展開企業の事業の円滑化、農林水産物・食品の輸出力の維持・強化及び国内供給力の強化支援
- リモート化等によるデジタル・トランスフォーメーションの加速
- 公共投資の早期執行等
特に注目したいのは後半のテレワークなどのリモート化の機運をもって、デジタル・トランスフォーメーションを一気に進めようとするところです。
確かに、今回の事態を受け、テレワークに消極的だった会社においてもテレワークをせざるを得なくなったという話や、実際にテレワークをしたことでその良し悪しを実感したことなどから、功罪を踏まえて収束後もうまくこのテレワークという手段を活用していけるのではないかという、大きな機運を感じます。
今回の一連の対応については、まだ先が見えない中で答え合わせをするフェーズにはありませんが、既に顕在化、あるいは可能性の見える点についてはこのようにV字回復フェーズの施策に盛り込み、強靭な経済構造を作ろうという意図が見えてきます。
Ⅴ.今後への備え
最後は、柱と吸えられているものの、いわゆる予備費ですね。ただし、こちらも先が見通せないものであるため、通常の予備費とは異なる「新型コロナウイルス感染症対策予備費(仮称)」を創設するとされています。
経済対策の規模
対策の内容は先に述べたとおりですが、最後にその規模について言及されています。
なお、規模の数字として「財政支出」と「事業規模」が出てきますが、財政支出は政府がその政策実行にあたって直接的に操作する金額を指し、事業規模はその政策実行によって一般企業の投資など間接的な動きを含めての経済規模を指しています。
そのため、今回ニュースで取り上げられる108兆円というのは、「それほどの経済効果を見込む」ということであり、「実際にその額を支出する」わけではないことにご注意ください。
決定時期ごとの規模
今回の対策は3月10日に決定されたものを含めた総額として決定されています。
そうした決定時期の違いを含めて並べると、以下のような対策規模となります。
施策区分 | 財政支出 | 事業規模 |
---|---|---|
総合経済政策 (2019年12月5日) | 約9.8兆円 | 19.8兆円 |
緊急対応策第1弾・第2弾 (2020年2月12日、2020年3月10日) | 約0.5兆円 | 2.1兆円 |
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策 (2020年4月7日) | 約29.2兆円 | 86.4兆円 |
合計 | 約39.5兆円 | 約108.2兆円 |
注意すべきなのは、今回新たに決定されたのは財政支出約29.2兆円、事業規模約86.4兆円となる第3弾とも言うべき対策です。
また、約108.2兆円の事業規模のうち、約20兆円は既に決定されていたものではあるため、それも割り引いて捉える必要があるかもしれないですね。
5本の柱ごとの内訳
また、5本の柱ごとの内訳も記載されています。
施策区分 | 財政支出 | 事業規模 |
---|---|---|
Ⅰ.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発 | 約2.5兆円 | 約2.5兆円 |
Ⅱ.雇用の維持と事業の継続 | 約22.0兆円 | 約80.0兆円 |
Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復 | 約3.3兆円 | 約8.5兆円 |
Ⅳ.強靱な経済構造の構築 | 約10.2兆円 | 約15.7兆円 |
Ⅴ.今後への備え | 約1.5兆円 | 約1.5兆円 |
合計 | 約39.5兆円 | 約108.2兆円 |
やはり「Ⅱ.雇用の維持と事業の継続」かけるお金が最も多いようですね。
また、それに連動するとされる事業規模の総額も圧倒的な大きさを見込んでいます。
事態収束はもとより、その後の経済のV字回復を狙う上でも、なんとかこの雇用や事業を守らなければ、V字回復する対象すらいなくなってしまうので、特に目玉と言っていい対策だと言えます。
財政支出の内訳
最後に、財政支出の内訳です。
冒頭で財政支出について「政府がその政策実行にあたって直接的に操作する金額」と説明しましたが、さらにこの財政支出の中でもいくつかに分けて考えることができます。
施策区分 | 財政支出 | 国・地方の歳出 | 財政投融資 |
---|---|---|---|
Ⅰ.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発 | 約2.5兆円 | 約2.5兆円 | – |
Ⅱ.雇用の維持と事業の継続 | 約22.0兆円 | 約12.2兆円 | 約9.7兆円 |
Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復 | 約3.3兆円 | 約2.8兆円 | 約0.5兆円 |
Ⅳ.強靱な経済構造の構築 | 約10.2兆円 | 約8.0兆円 | 約2.3兆円 |
Ⅴ.今後への備え | 約1.5兆円 | 約1.5兆円 | – |
合計 | 約39.5兆円 | 約27.0兆円 | 約12.5兆円 |
さて、この内訳はなにかというと政策によって操作するお金のうち、実際に支出するお金がいくらかということを示しています。
財政支出は「国・地方の歳出」と「財政投融資」に分かれますが、後者の財政投融資はいわゆる貸付なので、救済のために支出しているというわけではありません。詳しい形態はいくつかあるものの、名前の通り投資や融資というわけで、金利の免除や軽減という形での支援となります。
注釈から財政投融資枠のうち、国が実行する分が約10兆円であることがわかりますので、仮に金利10%を免除しているとすると、1兆円分の金利負担を国が肩代わりしていることになりますね。
一方、「国・地方の歳出」が救済のため国や地方が純粋に支出するお金で、この部分を指して経済対策における「真水」と呼んだりします。
ここについてはさらに注釈がついており、
国費は25.0兆円であり、うち、令和2年度補正予算は18.6兆円(一般会計16.7兆円、特別会計1.9兆円)である。
となっています。財政支出における国の支出が25.0兆円だと言っているのですが、さらに「うち、令和2年度補正予算は」と言っていることから、今回の経済対策として新たに計上した真水が18.6兆円であることがわかります。
今回の経済対策報道や総理自身の表現では「GDPの20%」「108兆円」という言葉が添えられていますが、ここまで読み進めれば、実際に政府が対策に充てるお金、つまり真水は約18.6兆円であることがわかります。ずいぶん聞いただけの印象とは違いますね。
経済対策の趣旨として、その対策によって国の経済そのものを活性化させることが目的であるため、事業規模で語ること自体は否定しません。
しかし、実際に民間企業が活発に活動できるかは、国からすれば神頼みのような側面がありますので、こうした経済対策を論じる際には、「事業規模ではなくあくまで真水での議論が必要」とする考えもありますので、いずれの数字もその意味を捉えておく必要があるでしょう。
まとめ
100兆円に言及しようとする文書としては43ページと短いものですが、今回決定した経済対策は日々の報道や首相の会見などだけでは、その全体像が掴みづらいものでした。
そうした新型コロナウイルス対応の全体像ですが、こうして一通り読んでみると、各省庁がそれぞれの領域で事態収束や経済基盤の維持に向けて最大限施策を張り巡らせており、一部報道が報じるような「1ヶ月かけてマスク2枚」というような無手の状況ではないことが見えてきます。
このような経済対策は、社会全体の構造を俯瞰してはじめて全体像が見えるものですので、単に入ってくる報道を聞いているだけでは、その意図や見通しはなかなか読み解けるものではありません。
しかしながら、多くの省庁が各領域において検討を重ね、社会機能の維持に向けてどのようなアプローチをとるべきかとした結果が、この「雇用と事業を死なせない」「事業を速やかに回復させる」ような経済対策となっていることは、一定程度理解できたような気がします。
足元で最も注目すべきは事態の収束であるというのは疑いようがありませんが、事態収束後のV字回復に向けた検討も進んでいるわけですので、いまがぐっとこらえ、1日でも早くV字回復に向けて活動できるよう、緊急事態宣言を受け、改めて自身の生活を見つめ直そうと思いました。